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GAFAMとバリュー株のどちらが優位か

コロナ禍で3月に暴落した米国株が急速に値を戻している。S&P500は8/18に下落前につけた史上最高値を更新した。
株価の上昇を牽引したのがGAFAMと呼ばれるGoogleAppleFacebookAmazonMicrosoftのハイテク大手5社だ。

ハイテクウェイトの高いNASDAQ100の年間リターンは57.57%と、20.70%のS&P500を圧倒している。f:id:shinonomen:20200830230321p:plain


7月時点で5社の時価総額は年初来33%を超える増加となった一方、S&P500の残る495社は時価総額の加重平均で5%下落している。米国株の上昇は完全にGAFAM頼みなのだ。

だが、8月に入ってGAFAMが株価を牽引する構図に変化が見られる。ハイテクグロース株の上昇とバリュー株の上昇が交互に起こり、どちらに転ぶか分からない相場が続いているのだ。
8月上旬はバリュー株が久々にグロース株をアウトパフォームし、巻き戻しが起こるかと思われたが、最近になって再びグロース株が勢いを取り戻し、ナスダックは連日史上最高値を更新している。

今後、GAFAMのようなハイテクグロース株と金融株のような出遅れバリュー株のどちらが上がるのだろうか。

1)バリュー株が優位だという主張
投資家の高橋ダン氏は8/10の動画でチャート分析から、出遅れ金融株が短期的に強く上昇すると予想。金融株ETFのXLFを買い、リスクヘッジのために、ナスダック100ETFのQQQをXLFの半分ほど空売りすることを推奨している。

www.youtube.com

氏は最近の動画でもFRBがリフレ政策を強めたことで恩恵があるのは金融株やエネルギー株であることから、XLFの保有とQQQの空売りの継続を推奨している。

SBI証券の北野一氏は8/21のレポートの中で、「世界的に不確実性が高まるような状況では、米国のグロース株が独り勝ちするという構造は理解できる」としながらも、「米国のバリュー株とグロース株のパフォーマンス格差は過去40年間で最大になっている」ことから、「安心を求めるがゆえに、安全が損なわれている」と警鐘を鳴らしている。
ITバブル崩壊後、グロース株はバリュー株を7年に渡ってアンダーパフォームした。今回もバリュー株優位の相場が到来するのではないかと言うのだ。


2)GAFAMが優位だという主張
一方、現在資金を集めているGAFAMは実際に高い利益を上げているため、バブルではないという指摘もある。

https://www.oaktreecapital.com/docs/default-source/memos/timeforthinking.pdf

オークツリーのハワード・マークス氏は8/5の「オークツリーメモ」の中で、「多くの投資家が価値に対する低金利の影響を過小評価している」と指摘。下記の式を挙げて説明している。

要求される株式の利益率=(債券利回り+株式プレミアム-成長率)

このうち、株式プレミアムとは、株は債券よりリスクが高いことから、投資家が要求する上乗せ金利のことだ。

成長率>債券利回り+株式プレミアムなら正しいPERは無限大になる。
GAFAMのようなテクノロジー企業は過去の大企業よりもはるかに速く成長し、その成長が一時的である可能性は低い。GAFAMのPERが高くても適正だと言うのだ。


3)主要株の株式プレミアム
ハワード・マークス氏の式を使って米国主要株とアジア・日本主要株の株式プレミアムを計算して検証してみた。

マークス氏の式を具体化して変形すると下記のようになる。

株式プレミアム=EPS成長率+株式益利回り(PERの逆数)-米国10年債利回り
8/16時点で10年米国債利回りは0.565%。
EPS成長率はEPSの10年分の推移に近似曲線を引いて求めた。

主な株のPER(8/16時点)、EPS成長率、EPS成長率の決定係数、株式プレミアムの一覧表を示す。

会社 ティッカー PER EPS成長率 決定係数 株式プレミアム
Apple AAPL 34.96 18 0.84 20.15
Microsoft MSFT 35.95 7 0.32 9.07
Amazon AMZN 121.03 35 0.58 35.12
Alphabet GOOG 34.49 13 0.88 15.19
Facebook FB 31.90 62 0.91 64.43
(GAFAM)   51.67 27 0.71 28.79
Johnson&Johnson JNJ 26.38 6 0.31 9.08
Walmart WMT 26.81 -2 0.08 1.02
P&G PG 26.38 0 0.00 3.08
Visa V 37.15 19 0.63 20.98
Master Card MA 44.80 17 0.97 18.52
JP Morgan JPM 13.56 9 0.76 15.67
United Health UNH 18.21 18 0.88 22.78
BERKSHIRE HATHAWAY BRK-B 40.41 6 0.20 7.77
Home Depot HD 27.89 20 0.99 22.88
NVIDIA NVDA 85.77 27 0.69 27.46
(USA Stock)   40.38 17 0.60 19.55
(USA Value Stock)   23.21 8.50 0.50 12.42
Alibaba BABA 43.09 21 0.49 22.61
Taiwan Semiconductor TSM 18.29 13 0.82 17.76
Tencent 700 41.41 31 0.97 32.71
TOYOTA 7203 13.03 11 0.16 17.97
SONY 6758 16.43 33 0.48 38.38

PERで見ると、GAFAMは平均51.67、米国主要株は平均40.38であり、GAFAMは割高なように見える。
だが、EPS成長率はGAFAMが27%、米国主要株は17%とGAFAMが大きく上回っている。
GAFAMの平均株式プレミアムは28.79、米国主要株の平均株式プレミアムは19.55であり、成長率を勘案すればGAFAMの株価は他の米国株に比べて割安だと言える。

GAFAMの中ではマイクロソフトが9.07%と最も割高だ。だが、成長率7%は2015年頃の利益低迷期に引きずられており、近年はもっと高い。逆にFacebookは年率62%という驚異的な値となっているが、長期的に62%で成長し続けるとは考えにくい。
アマゾンはPERが121と突出して高く割高すぎると思っていたが、長期的な成長率が35%もあるため、成長率が維持されるならPERが∞でも割安である。しかし、成長率が低下したら暴落するリスクがあるのだから、株式プレミアムが高いのは妥当といえる。

GAFAM以外ではホームデポが成長率が極めて安定している(=決定係数が高い)上に株式プレミアムも平均より高く、優秀である。
アジア株ではソニーがアマゾンに迫る高成長率の割に割安だ。

 

5)投資期間毎のリターン
ハワード・マークス氏の式では成長性が20%程度あれば、株価が∞でも適正になる。だが、∞の株価が適正な訳がない。
極めて長期間投資するならマークス氏の式が正しそうだが、短期的にはPERがもっと効いてくるはずだ。
そこで企業の利益が全て株主に還元されるとして、X年後に投資金額の何割が回収できるかを計算してみた。
GAFAM、PERが30以下の米国バリュー株、全米国主要株についての結果を示す。(横軸が年数、縦軸がトータルリターン)

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GAFAMは6年後に米国主要株、9年後にバリュー株にほぼ並ぶ。それより長く保有するならGAFAMの方がリターンが多くなる計算だ。
逆に言えば、数年しか保有しないのなら、バリュー株の方がリターンは多い。

高橋ダン氏、北野一氏とハワードマークス氏の意見は対立しているようだが、見ている期間が違うため、矛盾しない。
高橋氏は1~3カ月のモメンタム、北野氏は1~2年のリターンリバーサルの話をされている。一方、マークス氏が主張されている成長性が効いてくるのはもっと長期だ。

つまり数カ月から数年以内の短期ではバリュエーションの差が大きいためバリュー株優位の相場が来る可能性が高いが、それ以上の長期で見ればGAFAMのようなグロース株が優位なのではないだろうか。


6)結論
数年以内の短期ではバリュー株の方が割安だが、10年以上保有しGAFAMの成長が継続すると考えるなら、GAFAMの方が割安である。