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米国株の適正価格は投資期間によって異なる

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世界的な株の暴落が続いている。NY株式市場では下落率7%で取引中止になるサーキットブレーカーが3月に入って3回も発動した。
S&P500の最高値からの下落幅は17日時点で25.3%。16日には29.5%に達した。
このような乱高下相場ではバリュエーション(株式の適正価値)が意味を成さない。だが、いずれ市場が落ち着けば、株式は適正価格に落ち着くはずだ。
 
日経平均の適正価格を割り出すのは簡単で、PBR1.0倍の20252円だ。
これは日経平均を構成する全企業がトータルとして未来永劫全く利益を生み出さないという厳しすぎる仮定での適正値なので、日本経済がいくら消費増税新型コロナウイルスのダブルパンチでボロボロであろうとも、これより安ければ安すぎる。3/18時点で日経平均は16726.55円と適正値より17.4%も安い。
問題は米国株だ。


1.米国株の適正PER

S&P500の2018年からの平均予想PERは17.51だ。PER17.5ぐらいがS&P500の適正値だろう。
3/13のS&P500の予想PERは15.12と平均より13.65%安い。
ただし、現在の予想PERは新型コロナウイルスによる減益がほんとんど反映されていない。どの程度の減益が予想されるだろうか。


2.米国株の減益予想

新型コロナウイルスによる減益予想では、先行する中国が参考になる。
中国の1-2月の統計によると、
工業生産高は前年同期比13.5%減
社会消費品小売総額は前年同期比20.5%減
新型コロナウイルスの影響を受ける1-3月の売上高が両者の平均の17%減とすると、年間では4.25%減となる。
人件費のような固定費があるので、利益は売上以上の落ち込みとなる。

TKC経営指標速報版 製造業

上記のサイトによると製造業の固定費割合は平均33%、変動費51%だったので、
売上高100 固定費33 変動費51 利益16

売上高95.8 固定費33 変動費48.8 利益14 で12.5%の減益となった。
これは上海総合の高値からの最大下落率11.8%と概ね一致する。

www.chemicaldaily.co.jp


また、新型コロナ 緊急アンケート 中国事業、20年「減収減益」7割によると、
・「年央まで落ち込むが、下期にかけて回復。通年では若干の落ち込み」との回答が6割
・67%の企業が「減収減益」と予想。
・工場稼働率5割程度
とある。「若干の落ち込み」が具体的にどの程度か分からないが、12.5%よりは小さい感じがする。少なくともリーマンショックのような40%減益レベルではないだろう。

それでは米国の減益はどの程度だろうか。
中国はコロナショックの震源であり、2月中旬には2万人もの患者がいた。
普通に考えれば米国の減益幅は中国よりも小さくなるはずだ。
ただし、一切の経済活動を止めて徹底的に封じ込めを図った中国に対し、米国は対策が甘いし、国民皆保険でないため貧困層に蔓延すると収集がつかなくなるという指摘はある。
減益率は中国以下となる可能性が高いが、米国全土に爆発的に感染が拡大する最悪のケースでは、中国以上の減益になる可能性もある。
また、サウジアラビアの増産表明で原油価格が急落した悪影響も見逃せない。
シェールオイル企業は、ハイイールド債で大きな位置を占めているため、債務不履行を起こすと金融危機になるという指摘もある。
 
中国同様12.5%減益とすると、
3/13の予想PER15.12は利益が12.5%減るから、15.12÷0.875=17.28 となる。中国並みの減益になったとしても現在の株価は平均より割安だ。
3/13のS&P500の予想PER15.12が平均より13.65%安いということは、市場は13.65%の減益を織り込んでいる。
中国での新型コロナウイルスの減益を上回る減益だ。もちろんそうなる可能性もあるが、中国を超える被害が出ることは既に織り込み済みであり、それよりマシな結果になれば割安だと言える。


3.適正価格は投資期間によって変わる

今まで、株価は今後1年間の利益によって決まるという前提で話をしてきた。だが、市場にはデイトレーダーから永久保有の長期投資家まで様々なスパンの投資家がいる。
株式会社の利益は株主のものだ。
1年で売買する短期投資家は今後1年で会社が上げる収益を受け取るから、12.5%減益だと株価が12.5%下落する必要がある。
四半期で売買するさらに短期の投資家は今後3ヵ月分の収益しか受け取れない。もし中国と同程度の減益が発生すれば3ヵ月では50%の減益になる。それを考えれば、短期投資家が先を争って売っているのも納得がいく。
一方、10年間投資する長期投資家は今後10年分の収益を得られる。1年の12.5%減益しても得られる収益はトータルでは1.25%しか減らないからそれ以上株価が下落すれば割安になる。
市場を支配している機関投資家の多くは四半期からせいぜい一年毎に売買を繰り返す短期投資家であるから、株価は四半期毎の業績によって大きく変動する。
ウォーレン・バフェット氏は永続的に成長する優良企業の業績が一時的に悪化して株価が下落した時を狙って投資することで莫大な富を築いた。氏の投資手法は投資期間によって適正な株価が異なることを利用したものだ。

個人投資家の強みは機関投資家のように四半期毎に成果を示す必要がないことだ。
半年後になるか数年後になるかは分からないが、経済活動が元に戻れば株価は平均的PER(17.51)×現在のEPS(179.3)の3139.54まで回復する。
買った後株価が急落すると嫌な気持ちになるが、長期保有するつもりなら、短期で株価が上がろうが下がろうが関係ない。
個人の長期投資家は短期投資家の右往左往に付き合ってあたふたする必要はないのだ。