東雲製作所

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短期の値動きより本質的価値に注目しよう

 先週のS&P500はすさまじい下げっぷりだった。3.35%、3.03%、0.38%、4.42%、0.82%と5日続落し、一週間で12%も下落した。

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 私は2月14日に「落ちるS&P500はさっさと掴め」という記事を書いた。靴磨きの少年が株の話をし始めたのを聞いた投資家が株を売り払って暴落を免れたという話があるが、私のような凡人が「落ちた所は買い場だ!」とか言い出すと暴落が近いのであろう。

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 私は記事で書いた通り、3.35%の下落直後から買い向かった。リーマンショック時には急落直前から44.05%下落している。底で多めに買うことも勘案し、投資可能資金を50等分して、1%下落する毎に買い付けているのだが、一向に下落が止まらない。
 そろそろ下落の底なのだろうか。いくつかの底の判定法でチェックしてみた。


1.底の判定法によるチェック

1)もみ合ってダブルボトムをつけてから上放れしたら底
古典的な底値の確認方法。株価がWのような形のチャートを形成すると、下値支持線が形成され、それ以上下落しにくくなる。そこからもみ合いゾーンを上抜けて上がり始めたら上昇トレンドの始まりなので買うというのがテクニカル分析の教え。「ナイフが地面に突きささり、しばらく揺れ動いた後、しっかり止まってからつかむ」という奴である。
この手法は個別株に対しては今でも有効である。だが、最近のS&P500などのインデックスは悠長にもみ合ったりせず、いきなり急反発することが多い。悠長にダブルボトムを形成するのを待っていたら大抵買いそびれる。
今回の下落でもダブルボトムは全く形成されていない。

2)下げがいったん止まったらとりあえず底とする
一番簡単な方法。その後続落するリスクはあるが、大底で買いたければこの程度のリスクを犯さねばどうしようもない。
2/28現在、S&P500は続落中。NASDAQは2/28に+0.01%といったん止まった。ただしNASDAQは2/26にもいったん止まってから2/27に再度急落している。

3)先物が下げ止まったら底
2)よりさらに攻撃的な方法。ただし、先物は上げていたが、市場が開いてみたら続落ということは良くある。先物価格は参考程度にしかならない。
2/28現在、S&P500は2954.22、先物は2988.00と反発している。

4)RSI( Relative Strength Index:相対力指数)
買われすぎ、売られすぎを判断する指標。数値は0-100で表され、70-80%以上で買われすぎ、20-30%以上で売られすぎと言われる。
S&P500のRSIは2/28現在で19.164と売られすぎである。

5)セリングクライマックス
大規模な調整の大底付近ではしばしば投げ売りが相次いで株価が急落、出来高が急増する。
2/28は急落しておらず、出来高もやや増えているが急増という感じではない。

つらつら書いてきたが、底を確認する手法はどれも確度が低く、決定的なものはない。
いったん底をつけても、再度下落に転じることもある。底を確認してから買うのは難しい。


2.米国株は割安か

2/28現在、S&P500のPERは16.82。これは、過去2年間で、一昨年末の暴落時を除けば最安値圏である。逆に言うとまだ一昨年末の暴落時ほど割安にはなっていない。
PERではピンと来ないかも知れないが、益利回りで言うと5.945%。アップル、マイクロソフト、グーグル、アマゾンといった優良株の詰め合わせでの待利回りが6%近いのなら少なくとも割高ではないだろう。
ただし、現在の予想利益は新型コロナウイルスによる減益がほとんど反映されていない。今後下方修正が見込まれることを考えれば、さほど割安でない可能性も否めない。

一方、米国10年国債利回りは1.163%と過去最低水準まで低下した。
S&P500の益利回りと10年国債利回りの差であるイールドスプレッドは4.782%。
過去2年間でイールドスプレッドが4%を超えたことはほとんどなく、突出して大きい。長期的に見ても非常に割安だ。

完全な恐怖が0、完全な強欲が100であるFear&Greed Indexは2/28に極度の恐怖である10まで低下している。
過去を振り返るとFear&Greed Index20以下は絶好の買い場であることは既に記事にした通りだ。

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まとめると、現在の市場は恐怖に支配された投げ売りが起きた結果、米国株は割安もしくは適正価格になっており、米国債と比べると非常に割安である。
適正なのか非常に割安なのかどっちやねんという感じだが、イールドスプレッドに関して言うと、株が安いというより国債が異常に高いと見るべきだ。結構値動きが大きく、大幅下落リスクもある米国債利回りが1.163%では明らかにリターンがリスクに見合っていない。ましてや日本国債などマイナス金利国債は明らかにバブルと言えるだろう。


3.重要なのは株価が本質的価値より安いかどうか

株価が3100→3000→3100と推移した場合と、3000→2500→3100と推移した場合を考える。
共に3000で購入した時、投資家はしばしば前者は成功で後者は失敗だと考える。だが、どちらも3000で買って3100になったのだから、リターンは同じである。
重要なのは3000で買った時に割高か割安かだ。

現在の下落は新型コロナウイルスが世界的に蔓延して経済活動を阻害する懸念によるものだ。
あなたが1年以内で売買を繰り返す短期投資家なら、今買うのはリスクが高い。コロナウイルスがどの程度米国経済に影響を与えるか分かっておらず、どこまで株価が下がるか、いつまで調整が続くか分からないからだ。
一昨年末の暴落は、FRBが利下げを発表したことで、一気に反転したが、今回は一気に株価が反転するシナリオも考えにくい。コロナウイルスの流行が一気に収束することなどあり得ないからだ。

一方、あなたが10年以上の長期投資家であるなら、現在が良い買い場であることはほぼ間違いない。
例えばリーマンショックのような金融システム不安であれば、金融機関が融資を絞るなどの影響が残るので立ち直るのに時間がかかり、長期の企業業績にも影響が及ぶ。
一方、コロナウイルスの流行はいずれ収束し、以降の企業業績には影響を及ぼさない。今後10年間の企業業績に与える影響は軽微だ。であるならば、割高でなければ買ってしまって問題ないはずだ。

様々な指標を駆使しても、短期の値動きを予想することは難しい。今後株価がどう動くかより、現在の株価が本質的価値と比べて割高かどうかの方が重要ではないだろうか。