東雲製作所

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PERとイールドスプレッドのどちらを信じれば良いのか

 米国債利回りが急落している。米国10年債利回りは昨年末は3%以上あったのが、現在は1.6%台にまで落ち込んでいる。
 そこで私を悩ませているのが、「PER(益利回り)とイールドスプレッド、どっちを信じれば良いのか問題」だ。
 PERとは株価÷純利益で、PERの逆数(純利益÷株価)が益利回りだ。会社の利益が全て株主に還元されるとすると、株主は益利回り分の金利収入が得られる。
 一方、イールドスプレッドは益利回り-10年国債利回りだ。安全資産である10年国債よりどの程度株の利回りが高いかで、割安・割高を判断するための指標だ。

 現在の米国株はPERで見ると割高だが、イールドスプレッドで見ると割安だ。どちらを信じれば良いのだろうか。

 イールドスプレッド派の主張は、国債利回りが低下しているから、投資家は株の益利回りが低くても我慢して買うだろうというものだ。この主張は投資家の選択肢が米国株と米国債しかないなら正しい。だが、実際は不動産や欧州・日本・新興国の株や債券なども買うことができるので、米国債とだけ比べるイールドスプレッドが正しいのかは疑問だ。
 だが、現に7月はイールドスプレッドの上昇に伴って株価が上昇した。また、広木隆氏がイールドスプレッドが3%以下になると株が暴落するということが繰り返されていると指摘されている。
 PERとイールドスプレッド、どちらの指標を元に株を売買すれば良いのだろうか。

 そこで、S&P500を低PER(高益利回り)の時に買う戦略と高イールドスプレッドの時に買う戦略のどちらが有効なのか検証を行った。

 まず、データが手に入った1970年2月~2019年7月の月次データについて、S&P500を下記の3戦略で買い付けた場合の取得株数を比較した。

1)低PER戦略 PERが中央値より低い時だけ200$購入する。
2)高イールドスプレッド戦略 イールドスプレッドが中央値より高い時だけ200$購入する。
3)ドルコスト平均法戦略 毎月100$購入する。

取得株数は下記の通りとなった。
1)低PER戦略 368.75株
2)高イールドスプレッド戦略 233.59株
3)ドルコスト平均法戦略 233.37株

 低PER戦略が圧勝した。高イールドスプレッド戦略はドルコスト平均法よりわずかに良いだけだった。
 ただし、良く見てみると、低PER戦略は2013年6月に買って以降ずっと買っていないため、取得単価を抑制できていることが分かった。
 1970年からの長期で見ると、PER的には2013年6月以降ずっと割高だが、イールドスプレッド的には2009年11月以降ずっと割安という全く違う判断となった。
 長期PERに基いて売買すると2013年6月以降ずっと買えない。長期イールドスプレッドに基いて売買すると2009年11月以降ずっと買うことになる。これではどちらも指標として役に立たない。
 1980年代前半は国債利回りが10%以上、PERは10前後と現在と全く状況が異なる。検討に用いた期間が長すぎたようだ。

 そこで次に2018年1月5日~2019年8月9日の週次データを用いて検討を行った。
 当該期間のS&P500の平均予想PERは17.15、平均イールドスプレッドは3.12である。
 同様に1)低PER戦略、2)高イールドスプレッド戦略、3)ドルコスト平均法戦略の3戦略で、買い付けた所、取得株数は下記の通りとなった。

1)低PER戦略 3.038株
2)高イールドスプレッド戦略 2.965株
3)ドルコスト平均法戦略 2.956株

 やはり低PER戦略が勝利した。

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低PER戦略・高イールドスプレッド戦略比較

 1),2)の買い付け金額を示す。黄色三角の高イールドスプレッド戦略は7月の高値で買ってしまっているのに対し、赤菱型の低PER戦略は的確に安値を拾えていることが分かる。
 イールドスプレッドよりPERに従って売買を行った方が良いようだ。

結論:株の割高・割安の判断指標としてはイールドスプレッドよりPERの方が適切である。