東雲製作所

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単純化との向き合い方―ブラタモリの探求感想

 幕張メッセで毎年5月末に日本地球惑星科学連合大会という地学分野の研究発表や企業展示が一堂に会する大会が開かれている。その中でブラタモリの探求-「つたわる科学」のつくりかた』という一般公開プログラムを実施していた。『ブラタモリ』の製作者や出演者が番組の裏側を語るという内容だ。

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 15分の発表8本+総合討論という構成で、番組がすごい労力をかけて作られているということが多面的に分かって面白かった。特に、小山真人氏と井上素子氏という二人の案内人の発表が、光と影の両面を伝えていて印象深かった。

 『地球科学者がブラタモリを案内して考えたこと』は富士山の回で案内人をされた小山真人氏による発表で、テレビの科学番組のいい加減さをガンガン批判されていて痛快だった。
 小山氏によると、NHKでも専門家が直しに関われないため、全く間違ったCGを作るような番組もある。ブラタモリは何度も修正を行っているため他の番組よりはずっと正確だが、それでも番組側からの単純化圧力があり、圧力に屈したと思しき例が散見されるのだと言う。
 小山氏が例に上げていた内の一つがパリの石灰岩だ。番組ではパリの石灰岩が日本の石灰岩より柔らかいことを寿司と餅に例え、日本の石灰岩はプレート境界で地中深くまで沈み込み高い圧力が加わったため餅のように固くなったのだと説明していた。
 だが、小山氏によると、日本の石灰岩の方が古いから固いという説明の方がより適切なのだと言う。

 一方、長瀞秩父の案内人、井上素子氏のブラタモリ番組政策に学ぶ博物館のアウトリーチ活動の在り方』は正確さよりも大切なことがあるという観点から発表されていた。
 井上氏はディレクターから「案内人は黒衣に徹して下さい。案内人の説明が長いと草なぎ君が代わりに説明します。タモリさんがしゃべる尺が長いと成功です。」ということを言われたそうだ。
 タモリさんの説明には不正確な部分もあるのだが、知的に楽しむ姿を見せることで多くの人に地学の楽しさを伝えることの方が重要なのではないかという指摘をされていて、そういう見方もあるのかと感心した。

 確かに、パリの石灰岩が柔らかい理由を一般の視聴者が正確に知っている必要はあるか、不正確だとどんな不都合があるのか、と問われると答えに窮する。高い圧力が加わったから固いというのも嘘ではないので、多少不正確でも、地学に興味を持つ人を増やすことの方が重要だという指摘には一理ある。
 
 だが、単純化圧力は地学だけの問題ではない。今やあらゆる所に存在している。
 トランプ大統領は、貿易赤字は悪で、米国は中国やメキシコ、日本などに搾取されていると訴えている。確かに安い製品によってシェアを奪われた米国内の製造業者にとっては悪だろう。
 だが、米国の消費者にとってはそれだけ暮らしが豊かになっているのだから、良いことである。貿易赤字=悪のような単純な問題ではないのだ。
 だが、単純化が主張を広めるのに有効なことは、トランプ大統領や世界中で出現しているミニトランプを見れば明らかだ。

 我々は単純化とどう向き合っていけば良いのだろうか。
 情報の送り手としては、正確性に固執せず、ある程度の単純化は受け入れるべきだろう。だが、その場合でも嘘や間違いは避けるべきだ。倫理的に問題であるだけでなく、嘘がバレた時に信頼性を損ねてしまうからだ。
 また、単純化した情報によって興味を覚えた人が、より複雑な情報へアクセスできるよう整備しておく必要がある。そういう意味で地質学は全然駄目だ。最新の知見を取り込んだ地域地質の本やサイトが整備されておらず、いきなり論文を読まねばならない。

 一方、情報の受け手としては 単純化に抗う必要がある。政治のような問題では反対派が悪で自分たちが善みたいに単純化した方が気持ち良いが、実際はそう単純ではない。
 単純化してしまうと、党派性に囚われて判断を間違えかねない。我々は世界が複雑ですっきりとは割り切れないことに耐えねばならないのだ。

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