東雲製作所

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過ちを認めないと再起できない―生き残りのディーリング感想

 『生き残りのディーリング 決定版 投資で生活したい人への100のアドバイス』(矢口新著、パンローリング)は多くのプロディーラーが座右の書としているという名著だ。書かれたのは2001年だが、原則的なことが書かれているので、内容は古びていない。

 私は主に長期投資の本を読んでいたので、「損切りオーダーをつけて節目節目で買い迎えば、大底での買い余力が大きい」といったテクニックは新鮮だった。

 本書で最も感心したのは「ポジションの量と保有期間が方向を決める」という教えだ。
 ある株の買い手と売り手が一人ずつだとする。買い手が一年間、売り手が一日だけポジションを持つと、売り手は売ろうとしても買い手がいないため、価格は限りなく上昇する。
 私は相場の流れは投機筋によって大きく左右されていると思っていた。だが、短期売買を繰り返す投機筋にはトレンドは作れない。大きなトレンドは、実需など長期にわたってポジションを保有する人の売買によって決まっているという本書の指摘を読んで、目からうろこが落ちた。

 本書で繰り返し説かれているのが、損切りの徹底となんぴんの厳禁だ。

 損切りについて本書はこう説いている。
 損は切るもの。アゲインストのポジションは持ってはならないものなのです。
 アゲインストのポジションからは、まともなものは何ひとつ生み出せません。必要以上のエネルギーを消費させ、相場観を狂わせ、機会利益を減少させ、ひいては取り返せないほどの損を抱える危険をはらんでいるのです。

 また、なんぴん買いは「ルーレットなどで負け続けても、やられた分の倍額を賭け続ければ、一回の勝ちで全額取り戻せると考える博打戦法と同じ」であり、「勝つ確率は確かに高まりますが、膨大なリスクに比べて、期待利益があまりにも小さい」と痛烈に批判している。

 買ったものが値下がりしたということは、自分の判断のあやまちを、相場が教えてくれたのです。
 大切なのは、その後の態度です。ここは謙虚にあやまちを認め、一度損切って出直すべきところです。

 塩漬け株を持っている私には耳が痛い。


 損切りの徹底を説く本書の主張は、他の投資本と対立しているように見える部分もある。

 投資の初心者向けのベーシックな投資本では、世界的に広く分散された低コストのインデックスファンドをドルコスト平均法でコツコツ積み立てろと説いているものが多い。インデックスファンドを積み立てるような場合 値下がりして赤字になった時に売らずに買い増すと、損切りせずになんぴんしていることになる。
 また、ウォーレン・バフェット氏は株を十分割安だと信じる価格で買ったら、下がっても損切りはせず、適正価格になるのをじっと待つという投資法で巨万の富を築いた。
 矢口氏の主張と相反するようだが、どちらが正しいのだろうか。


 重要なのはもくろみが崩れたかどうかだ。
 インデックスファンドの積み立ては短期的な値動きは気にせず黙々と積み立てていけば、市場平均のリターンが得られるというもくろみで投資している。従って、短期的に値下がりしたからと言って、当初のもくろみが崩れた訳ではないため、損切りする必要はない。

 バフェット氏の場合も、短期の値動きに関わらず三年ぐらい保有すれば適正価格になるだろうというもくろみで投資している。短期的に下落してももくろみが崩れた訳ではないから損切りしなくて良い。
 バフェット氏は三年程保有して十分なリターンが得られなかった株は売却している。氏ももくろみが崩れた場合はあやまちを認めて軌道修正しているのだ。

 一方、短期で利ざやを稼ごうとして保有したのに、下落したら長期保有すれば上がるとばかり塩漬けにしたりなんぴんしたりするのは、もくろみが崩れたのに、そのことと向き合っていない、「損を認めたくないための、臆病な行為」にすぎない。

 過ちを認めない人は、同じ失敗を繰り返す。過ちと向き合わないと再起できないのだ。

 

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