東雲製作所

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スマホが表現を規定する

 TBSラジオのアフター6ジャンクションで12月4日、1月8日の二回にわたってWebトゥーンの特集をしていた。

www.tbsradio.jp


 Webトゥーンとは縦スクロール、フルカラーのウェブ連載されている漫画のことだ。

 12月4日は「海月姫」など紙漫画のヒットメーカーでありながら、LINEマンガで「偽装不倫」を連載している東村アキコ氏がゲスト。
 東村氏の場合、普通の漫画のように描いた原稿を編集者が縦スクロール用に再配置しているのだが、Webトゥーンでデビューした人は、最初から巻紙のような原稿用紙に描いているのだと言う。

 縦スクロールウェブ漫画だと当然表現方法も変わってくる。
 第一に紙漫画と違って見開きが使えないので、間を取ることで見せ場感を作る。
 第二に紙漫画はページをめくった所に見せ場がくる必要があるが、Webトゥーンにはその制約がない。
 第三に印刷上の制約がないのだからフルカラーであることが推奨される。(東村氏はモノクロでスクリーントーンを貼るよりカラーの方が楽とのこと。)
 第四に小さい画面で読むので背景を極力減らすよう言われる。
 第五にコマ割りがないので台詞がより重要になる。

 また、東村宅には手塚治虫など、過去の名作を集めたマンガ部屋があるのだが、子供やその友達は紙の漫画には見向きもせずにみなスマホで漫画を読んでいるのだと言う。


 1月8日は関西外国語大学講師でWebトゥーンに詳しい具本媛氏がゲスト。
 Webトゥーンは元々韓国で若者たちがブログ用の色んなコンテンツの中の一つとして生み出したもので、漫画家が作った訳ではない。
 Webトゥーンでは絵と台詞を交互に配置したり、ズームイン、ズームアウトを連続した多数のコマで表したりと動画的な表現が盛んだ。
 スマホでは一回のスクロールで画面が大きく動くので、縦に速く動いた状態でちょうど良く見えるよう計算して描いている。
 韓国では2004年からWebトゥーンが盛んになったので、それ以降の世代はほぼWebトゥーンしか読まないのだと言う。
 

 これを聞いて思ったのが、アニメも若い人はスマホで観ているのではないかということだ。
 最近、美麗でぬるぬる動く作品が以前ほどヒットしなくなった。昨年の大ヒット作、ポプテピピックはたらく細胞は、映像の美しさというよりもアイデア重視の作品だ。
 私はこれを、視聴者が美麗な画に慣れて有り難みが薄れたためとか、情報過多に疲れている等々の理由を考えていたが、それだけでは説明しきれないと感じていた。だが、スマホで観る人が増えたのだとすると、合点がいく。スマホで観るなら、ヴァイオレット・エヴァーガーデンよりポプテピピックの方が断然見やすいからだ。
 

 最近は小説もスマホで読む人が多い。小説家になろうのようなウェブ小説は、ストーリーが単線的な作品が多いという特徴がある。  
 単線的というのは、一人の主人公が順々に仲間を増やしていったり、敵を倒していったりする構造のことだ。単線的な物語構造は古くは桃太郎のような口承文芸に良く見られる構造だ。作者が書いてはアップしていくので、口承文芸に近い特徴を持つのだろう。
 ウェブでは込み入ったミステリーや多元内視点みたいな複雑な構造の小説は流行らない。紙だと、引っかかる所があっても戻って参照するのが楽だ。一方、スマホだと、何十ページも前に戻るのはかなり面倒くさい。


 スマホに最適化すべく、色んなジャンルのフィクションが表現を工夫しているのは素晴らしい。だが、小説や漫画を読むなら紙の本が、アニメを見るならテレビの方が媒体としてより優れている。具氏も自分は紙漫画の方が好きで、Webトゥーンは紙漫画の感覚を再現するために工夫していると語っていた。
 だが、すでに漫画の売り上げは電子書籍が紙の単行本を追い抜いており、このままでは漫画は完全にWebトゥーンに移行してしまいかねない。
 紙の本や高画質のテレビで見るために積み上げられてきた技術が、スマホで見るには邪魔になるという理由で衰退してしまうとしたら、非常に残念だ。

 番組パーソナリティー宇多丸氏が指摘していたが、漫画を読むメディアはスマホで打ち止めになるとは限らず、VRのような方面に進化するかも知れない。スマホは携帯性を優先した結果、フィクションを読むには画面が小さすぎる。タブレットは大きさは良いが重くて長時間持っていると疲れてしまう。
 早く携帯性に優れ、大きな画面で見ることができ、操作性も優れている端末が開発されて欲しいものだ。

 

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