東雲製作所

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受け入れがたいアノマリーだけが生き延びる――『勝てるROE投資術』感想

読者によって興味のある記事が分かれていそうなので、投資記事は週前半に、その他の記事は週後半に更新することにしました。

  『勝てるROE投資術』(広木隆著、日本経済新聞出版社)はROEについて網羅的に解説された好著だ。説明は分かりやすいが、残余利益モデルやCAPMといった高度な内容についても触れられていて非常に勉強になる。
 本書で最も衝撃を受けたのが、下記のグラフだ。

 

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 TOPIX採用銘柄をPBR、ROEの高さによって5×5の25グループに分け、過去15年間のリターンを調査した所、最低PBR、最低ROEのグループが突出してリターンが高かったというのだ。

 このグループのROEは-15.0とあるので、赤字企業ということだ。PBRが最低ということは、市場からこの企業は将来性が皆無だと見なされているということだ。

 赤字を垂れ流し、お先真っ暗と見なされているボロ株中のボロ株こそが最もリターンが高い。そんな馬鹿な!
 にわかには信じがたいがこれだけ圧倒的差がついていると、信じざるを得ない。

 15年間で950%というのは年率16.19%という驚異的なパフォーマンスだ。これだけ突出したリターンを上げている投資法なら大勢に真似されそうなものだが、低PBR、低ROE銘柄に投資しろと書いている本は見たことないし、そんな戦略を実行している投資家も見たことがない。
 低PBRが良いと書いてある本は存在するが、低ROEの方が良いと主張している本は聞いたことがない。
 ウォーレン・バフェットは収益が安定している優良企業の業績が一時的に落ち込んだ時にも投資しており、その中には一時的に低ROEになっている銘柄もあるかも知れない。だが、バフェットは基本的に高位安定したROEを好んでおり、低PBR、低ROE銘柄が良いという結果からはかけ離れている。

 特定の特徴を持った銘柄や時期に売買することで、市場平均と異なったリターンが得られることをアノマリーと呼ぶ。普通、模倣可能なアノマリーは真似されて消滅する。
 ダウの負け犬戦略という投資法がある。ダウ平均30銘柄の中で配当利回りが高い10銘柄を買うことで、ダウ平均を上回るリターンが得られるという戦略だ。
 この戦略は発見当初は有効だったが、大勢が真似するようになった結果、ダウ平均を上回れなくなった。配当利回りが高いということは人気薄で割安だということだ。大勢が真似した結果、高配当銘柄に人気が出て割安度が薄れてしまったため、リターンが悪化したのだ。
 なぜ低PBR低ROEのリターンが高いというアノマリーはほとんど真似されず、生き延びているのだろうか。

 まず考えられるのが、この戦略を真似するのが大変だということだ。
 ボロ株程リターンが高いと言っても、全ボロ株のリターンが高いのではなく、ボロ株の中に時折業績を回復させ驚異的リターンを上げるものがあり、平均を押し上げていることが予想される。
 全ボロ株を網羅的に買えば勝てるのだろうが、現実的ではない。したがって、ボロ株の中から何銘柄か選んで買うことになるが、それだと全部スカになる可能性がある。業績が回復しなかったボロ株会社は倒産しかねないので、リスクが高い。

 これも想像だがボロ株のリターンは常に高いわけではない。将来の景気後退が予想される現在のような状況ではボロ株は真っ先に売られるので儲かるとは思えない。広木氏も「市場参加者のリスク許容度が急速に高まり相場が急回復する局面で、収益性の低いボロ株が急騰することがよくあるが、低PBRかつ低ROE銘柄グループの高リターンはこの現象が反映されていると思われる。」と分析されている。
 ボロ株戦略はおそらくリスクオン相場でしか有効でないが、リスクオンになるタイミングを測るのは難しいし、リスクオンになったからと言って、必ずボロ株が急騰するわけでもない。
 ボロ株戦略にはいつ上がるとも知れない株を持ち続ける忍耐強さも求められる。

 だが、ボロ株戦略が生き延びている最大の要因は受け入れがたい結論だからではないか。広木氏自身、
「本書の趣旨とは異なるが、ハイリスク・ハイリターン狙いの投資戦略として、このゾーンに所属する銘柄へ若干の投資ポジションをもつというのも一考だろう。」と書かれているものの、最終的には
過去はROEの高い銘柄に投資しても報われることはなかった。これからはどうか? わからない、と述べた。JPX日経400に投資したら儲かるのか? わからない。わからないが、JPX日経400に投資して儲かるようにしていかなければいけないと思う。」と書かれており、「高収益の優良株よりボロ株に投資した方が儲かる」という結果は受け入れがたいと考えておられるのが伝わってくる。
 広木氏は効率的な経営ができていないダメ企業が退場しないことが日本全体の生産性を下げていると主張されているので、ダメ企業に投資する戦略が有効では困るのだろう。

 一流ファンドマネージャーの広木氏ですら受け入れがたいのだから、大半の投資家が受け入れがたく感じ、低PBR低ROE戦略に踏み切れないのも無理は無い。
 さらに誰だって業績が低迷していてお先真っ暗な株なんか買いたくない。いくらデータ上有効だと分かっていても、心理的抵抗により買うのをためらってしまうことによってアノマリーが温存されているのではないだろうか。

 本書が書かれたのは2014年なので、低PBR低ROEのボロ株程儲かるというアノマリーはもしかするとこっそり真似され、現在は解消している可能性もある。
 リスクオフ局面の今やるのはおすすめできないが、それでももしボロ株戦略を実行に移されるのなら、ご自身でデータを検証し、現在でも有効なことを確認されてからにして頂きたい。

勝てるROE投資術

勝てるROE投資術