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円ベース債権的商品の検証

 株式のリターンは長期的には債券より高くなる。
 満期まで持っていれば一定の利回りが確約されている債券に対し、株式はいくらになるのか分からない。分からなくて不安なものは、その分、リターンが高くなる。

 例えば、一年後、確実に1050円になる1000円の債券と、一年後には1400円から700円の間のいずれかの値段になる1000円の株式を売っていたら、ほとんどの人は債券を買うだろう。
 債券は売れるので値上がりして1020円ぐらいになり、株式は売れないので値下がりして980円ぐらいになる。これが株式の利回りが債券より高くなる仕組みだ。

 利回りが高いものを買った方が良いので、私は全く債券を買っていなかった。だが、JPモルガンのGuide to the Marketsという四半期毎に発行されるレポート及び解説を読んだ所、景気拡大の終盤戦で株式より債券が優位になる転換点が訪れると書いてあったので、債券投資を検討してみることにした。 
 Guide to the Marketsは示唆に富んでいるので投資家は必読である。

 資産をドルで運用しているなら、著名米国株ブロガーたぱぞう氏おすすめのBND(バンガード米国トータル債券市場ETF)を買えば良いだろう。

www.americakabu.com


 だが、円ベースではこれぞという債券商品が見当たらない。
 普通なら、単に国債などの日本債券を買えば良いのだが、現在は日銀の超低金利政策により、日本国債10年利回りはわずか0.09%だ。

 山崎元氏の本を読むと、個人向け国債「変動10年」は利上げ時に利回りが上昇するので悪くないと書かれている。だが、10年間ずっと利上げがない可能性もあるので、実際に利上げがなされてから買えば良いのではないか。山崎氏も低金利下では債券は買わなくて良いと書かれている。(海外債券は円ベースでは為替変動リスクの方が大きいため)

 そこで、日本債券の代替となる投資先はないか探してみた。

 債券で重要なことは下記の3つだ。
1)利回りが高い
2)株式との連動性が低い
3)株の暴落局面でつられて暴落しない。

 1)は当然だが、2)、3)については解説が必要だろう。
 長期的リターンで株式を下回る債券に投資する意義は下記の2点だ。
i)株式と組み合わせてリスクを軽減する。
ii)株式が暴落した時に売り払って、株式を購入するための資金にする。

 i)のためには2)である必要が、ii)のためには3)である必要があるのだ。
 そこで、1)から3)について代表的債権的商品(インカムゲイン狙いの商品やディフェンシブな商品)について検証を行った。
 インカムゲイン狙いの商品としては他に実物不動産や太陽光発電もあるが、共にまとまった資金が必要なので省略した。

各商品の値動きは下記の値を用いた。
国内債券 (NEXT FUNDS)国内債券・NOMURA-BPI総合
先進国債券 外国債券・FTSE世界国債
国内リート 東証リート指数
高配当株 MSCIジャパン高配当利回りインデックス・F(年2回)
金      iシェアーズ ゴールドインデックス・ファンド(為替ヘッジなし)
ソーシャルレンディング SBISL不動産担保ローン事業者ファンド
銀行預金 イオン銀行普通預金

1)利回り
各指数の11/1時点での年初来騰落率は下記の通りだ。
国内債券 99.1%
先進国債券 94.04%
国内リート 105.46%
高配当株 85.33%(+分配金2.28%)
金      92.13%
ソーシャルレ 102.93~104.31%
銀行預金 100.08%

参考
S&P500 100.49%
TOPIX 87.56%

 Jリートソーシャルレンディングのリターンの高さが目立つ。どちらも不動産関連であり、相対的に不動産が好調な一年だったと言える。
 Jリートは今のところ好調だが、景気が悪化すると大きく値を下げるというリスクがある。
 ソーシャルレンディングは利回りが高いものの、事業が失敗して元本が戻ってこないリスクがあるハイリスク・ハイリターンな商品だ。中には年利10%のファンドもあるが、その分リスクも高い。
 債券や金は低迷しており、銀行に預けておいた方がましな状態だ。

 先進国債券のリターンが悪いのは現在が利上げ局面だからであり、利上げが止まればリターンは改善するはずだ。米国の利上げは終わりが近づいており、そろそろプラスのリターンが見込めるかも知れない。

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 年初来のグラフを見るとJリートの好調さと国内債券の値動きの少なさが際立っている。2018年の国内資産はJリート以外壊滅状態と言えよう。

 より長期の利回りはmyINDEXにデータがあった。

世界の主な投資資産リターン (毎月更新) - myINDEX


過去15年の年率平均リターンは
日本株式 +5
外国株式 +8.3
日本債券 +1.8
国債券 +4
日本不動産 +7.6
外国不動産 +8.5
コモディティ -2.6
となっている。

 長期的に見ても、日本不動産に相当するJリートは債券よりリターンが高い傾向にあるようだ。

2)株式との連動性
 インデックス投資家の多くは米国株か先進国株をメインの投資先にしている。
 先進国株の半分は米国株なので、円ベースのS&P500連動ETFであるSPDRS&P500との相関係数を求めた。相関係数は完全に一致していると1、完全に逆相関だと-1、無相関だと0になる。株式の価格変動を緩和するには値が小さい程良い。

国内債券 -0.52
先進国債券 0.13
国内リート 0.72
高配当株 -0.11
金    -0.56
ソーシャルレ (0)
銀行預金 (0)

 金と国内債券が大きめの逆相関を示し、一歩リードした。株式の値動きを緩和することを重視するなら、金か国内債券だが、国内リート以外は相関係数が低いので、株式の変動を緩和する役割は十分果たせる。
 債券は株式と逆相関になると言われているが、先進国債券は弱いながらも米国株式と正の相関を示した。為替の影響が似通っているためだろう。


3)株式暴落時の連動性
今年二回あった大きな米国株の下落時における各資産の騰落率を調べた。
2018年10月1日→10月29日
SPDRS&P500 89.89%
TOPIX    87.44%
国内債券 100.4%
先進国債券 97.52%
国内リート 99.01%
高配当株 89.83%
金    101.59

2018年1月23日→3月26日
SPDRS&P500 87.45%
TOPIX    87.45%
国内債券 100.2%
先進国債券 95.17%
国内リート 94.85%
高配当株 87.61%
金    95.47%

ソーシャルレ― (100%)
銀行預金 (100%)

 米国株と逆相関を示した金と国内債券だが、期待できる値上がり幅はほんのわずかであることが分かった。
 株価暴落時に大きく値を上げてくれる債権的商品があれば最高なのだが、そういう商品は存在しない。
 金は1月の下落では一緒に下落しているし、国内債券は上げているが上げ幅はわずかだ。短期で0.2-0.4%上げていると考えれば悪くないかも知れないが、解約して現金化する間の数日に絶好の買い場を逃がす可能性を考えると、銀行預金より優れているとは言いがたい。
 Jリートは高い利回りの割には下げ幅が少ないため、債券的に使えなくもない。
 たぱぞうの米国株投資でも同様の質問がなされていたが、たぱぞう氏は「債券と同等の安定感があるかと言えば、それはやや早計」「結局東証REIT指数も市況次第ですから、本格的に景気が悪くなれば当然下がります。」と回答されていた。

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 リートは基本的に株式の値動きを小さくしたような値動きをするので、株の暴落時はリートにとっても買い場であることが多い。従って、株の暴落時にJリートを売り払って株を買うのが良いかどうかは微妙である。
 なお、ソーシャルレンディングは株式の下落に合わせて下落はしないものの、途中で引き出せないので、株暴落時用資金という役目は全く果たせない。

 ろくな商品がないようだが、ドルベースで考えると景色が変わってくる。
 日本円は暴落初期の2018年1/17~2/15に対ドルで4.86%、10/3~10/16には2.46%上昇している。つまり、単に円で持っているだけで、短期間に米国株などのドル資産を買うための資金が数%も増えるということだ。
 日本円銀行預金は利回りは非常に低いものの、株暴落時用投資資金置き場としては世界最強なのだ。

4まとめ
 2)、3)の機能としては銀行預金か日本債券が、1)だけならソーシャルレンディングが優れているが、1)~3)の要素を総合的に考えるとJリートが最も優れている。と言うより、他がボロボロなので、Jリートぐらいしか有望な投資先がない状態だ。
 しかしながら、リターンが優れた投資先は年毎に変化することが多い。リターンが良い投資先に資金が集中して値上がりし、リターンが悪化しがちだからだ。

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