東雲製作所

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長期移動平均線によるタイミング投資は有効か

1.はじめに

 前回の記事ではPERによるタイミング投資(低PER法)の有効性を論じた。

 低PER法には効果が出るまで時間がかかることの他に、実用上の問題がある。時系列データが得にくいのだ。
 私が調べた限り、ネット上で入手できる長期のPER時系列データは世界主要株式市場の株価収益率(PER)がまとめている日経平均、ダウ平均、上海総合指数等だけであり、S&P500やTOPIXMSCIコクサイ、MSCIエマージングについては2年以内の短期データか最新のデータしか入手できなかった。これらについて低PER法を行うには、定期的に公表されるデータをこつこつ記録し続けてデータを蓄積する必要がある。
 また、PERが公表されるのは、早くても取引終了後、遅い場合は週に一度であり、素早い売買を行うには適していない。

 投資の世界にはファンダメンタル分析テクニカル分析という二つの派閥がある。
 ファンダメンタル分析は長期的には会社の価値に見合った株価になるという考え方だ。PER、PBR、ROE、EPS成長率といった会社の価値を表す諸指標を調べることで、会社の生み出す利益や成長性に比べて一時的に割安になっている株に投資する。

 一方、テクニカル分析は会社の価値は全て株価に織り込まれているという考え方で、株価の値動きのみを分析の対象とする。移動平均線などを用いたチャート分析によって売買の判断を行う。
 私はファンダメンタル派なので、短期のテクニカル手法には懐疑的だ。だが、ファンダメンタルが長期的には株価に織り込まれると考えるならば、ファンダメンタル指標であるPERの代わりに長期のテクニカル指標である長期移動平均線乖離率を用いても良いのではないか。

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2.移動平均線法の検証

 そこで、株価が200日移動平均線を下回った時のみ購入する、という投資法(移動平均線法)が有効か検証を行った。
 検証には2002年8月14日~2018年10月12日の日経平均終値データを用いた。
 移動平均法では200日移動平均線より終値が下の時のみ200円購入する。これと毎日100円ずつ購入するドルコスト平均法とで、平均取得単価の比較検証を行い、下記の結果を得た。


移動平均線 
投資金額315800円
取得株数 28.76株
平均取得単価 10978.88円

ドルコスト平均法
投資金額396500円
取得株数 31.62株
平均取得単価 12538.93円


移動平均線法を用いることで平均取得単価を12.44%下げることに成功した。

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 グラフのオレンジの部分が移動平均線法で購入した箇所だ。移動平均線法では下げ相場の初期に高値掴みしやすく、上げ相場の初期に購入を打ち切ってしまう傾向が見られたが、概ね高値を回避し、安値を拾えていることが分かる。

 ちなみに、テクニカル分析では、株価が長期移動平均線を上回ったら買い、下回ったら売るという戦略が一般的である。これは”下げ相場の初期に高値掴みしやすく、上げ相場の初期に購入を打ち切ってしまう傾向”を逆用して高めに売って安めに買っているわけだ。 しかしこれは、割安圏にいた株価が割高になるまで待ってから買い、割高圏にいた株価が割安になるまで待ってから売っているわけで、私には理解しがたい。割安なうちに買い、割高なうちに売った方がより儲かるのではないだろうか。

 

 ダウ平均でも同様の検証を行った所、下記の結果を得た。
移動平均線 
投資金額207600$
取得株数 19.96株
平均取得単価 10403.33$

ドルコスト平均法
投資金額407600$
取得株数 32.53株
平均取得単価 12528.23$

移動平均線法の方が平均取得単価が16.96%低くなった。

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 移動平均線法は優秀だが欠点もある。好調な上げ相場が続くとその間全く購入できなくなることだ。
 日経平均とダウ平均の今世紀に入ってからの平均乖離値は日経平均が+256.61円 ダウ平均が+353.63$ だった。ざっくり言うと、日経平均は200日移動平均線からの乖離値が+250円、ダウ平均は+350$以内だったら、平均よりは割安なので買っても良い。


3.低PER法と移動平均線法の比較
 低PER法と移動平均線法のどちらが優れているのだろうか。
 同期間の日経平均株価における、低PER法と移動平均線法の購入時期を並べて示す。(上が低PER法、下が移動平均線法)

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 両者の結果はかなり似通っている。だが、細かく見ると違いもある。両手法の利点と欠点は下記の通りだ。

低PER法
利点:ファンダメンタルの裏付けがあるため、バブル時の高値掴みを避けられる。
欠点:経済危機後の安値を買い逃す危険性がある。PER値が手に入りにくい。

移動平均線
利点:データが入手しやすい。
欠点:過去のデータに引っ張られるため下げ相場の初期に高値掴みしやすく、上げ相場の初期に購入を打ち切ってしまう。市場が長期に渡って間違うと誤った結果を出す。

 200日移動平均線乖離率はググれば簡単に入手できるのに対し、低PER法はExcelで計算しなくてはならず、手間がかかる。さらに、指標によっては長期時系列PERデータが入手できないものもある。
 原理的には低PER法の方が正しいが、実用上は移動平均線法の方が優れている。
 主に移動平均線法で売買を行い、低PER法で適宜チェックするのが良いのではないか。