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バフェットは市場の効率性を利用して勝っている

 効率的市場仮説によると、公表されている情報は全て株価に織り込まれている。従って、公表されている情報をいくら分析しても、継続的に市場平均以上のリターンを得ることはできない。
 市場は集合知の正しさを利用したシステムだ。牛の体重を予想するのに、大勢の観客の予想を平均した値は、牛の専門家が予想した値よりも正確だったと言う。市場はあらゆる情報を素早く正確に織り込んで動くため、投資家が市場全体を出し抜いてより多くのリターンを得るのは難しい。

 だが、効率的市場論者が見落としていることがある。市場に参加しているプレイヤーの多くは数分からせいぜい数ヶ月程度で売買を行う短期投資家=投機家だ。彼らは短期的に利益を上げることを目的として行動している。巨額の資金を動かしているヘッジファンドのマネージャーは四半期毎に成果を出さねばならないため、短期的に値上がりが期待できる銘柄にしか投資しない。従って、市場では短期投資家にとって効率的な価格付けがなされる。
 短期的な値動きと長期的な値動きが異なる場合、長期投資家にとっては歪みが生じる。長期投資家はその歪みを利用して儲けることができるのだ。

 例えば、何らかの理由で今後一年間は株価が低迷し、その後は順調に上昇することが見込まれる株があったとする。今後一年間のリターンは0だと予想できるので、短期投資家はその株に投資しない。結果としてその株は、長期投資家から見れば割安な水準で放置されることになる。

 ウォーレン・バフェットの戦略は全て短期的な値動きと長期的な値動きの差異を利用したものだ。
 バフェットが投資をするのは、安定した収益が見込まれる優良企業が、1)相場全体の調整や暴落や2)一時的な損失によって値を下げた時だ。
 どちらも短期的に株価が低迷し、その後上昇することが見込まれるパターンであることが分かる。

 相場全体の調整時に短期投資家が投げ売りをするのは、短期的な利益という点では合理的な行動だ。株を保有しているとさらに下がるリスクが高まっているからだ。
 企業が一時的に損失を出した場合も同じだ。企業が訴訟に負ける等の理由で一時的に大きな損失を出した時、当該年度の利益が減少するため、株価は下落する。短期投資家にとっては保有していても利益が得られないわけだから、売却する方が合理的だ。
 だが、どちらの場合も、長期投資家から見れば、その後株価が上昇することが見込まれるわけだから、割安な歪みが発生しているのだ。

 逆の場合もある。市場の期待を集める急成長株ではPERが100を超えることもある。PER=100とは投資金額を回収するのに100年かかるということだ。利益の急成長が続けばもっと短期間で回収可能だが、利益の急成長は永続しないので、長期的に見れば高すぎる不合理な価格付けがされている。だが、短期投資家から見れば、上手く売り抜けられれば大儲けできるわけだから、合理的な価格なのだ。
 急成長株はバフェットが投資するパターンとは逆に、短期的には上昇し長期的にはどこかで下落することが予想される。長期投資家から見るとアホみたいな価格でも、短期的には合理的なのだ。

 バフェットは長年安値で放置されているが、フェンダメンタル分析の結果優れているから投資するというスタイルはあまり採らない。それより、一時的に値を下げた銘柄に投資することが多い。これはバフェットが市場の効率性をある程度信用していることの現れではないだろうか。もし市場を全く信用していないなら、過去に高値をつけていたかどうかなど全く気にせずに投資するはずだからだ。

 効率的市場仮説に対してよく、バフェットは継続的に市場平均以上のリターンを得ているじゃないかという批判がなされる。それに対し、効率的市場論者は、大勢が投資を行えばリターンは正規分布になるのでたまたま勝つ人も現れるのだと反論しているのだが間違っている。

 実際の市場は短期的にのみ効率的なので、短期と長期の値動きが異なる銘柄に関して歪みが生じることがある。
 バフェットは市場が短期的には効率的であることを利用して儲けているのだ。

 

バフェットからの手紙 第4版

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