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安部首相が辞めても代わりがいない説は本当か

 財務省の決裁文書書き換え問題で安倍政権が窮地に立たされている。安倍政権を擁護する意見も、当初は朝日新聞による捏造だ、といったものが多かったが、政府が書き換えを認めてからは、官僚が勝手にやったことで安部首相や麻生大臣には関係ない、という意見が主流になっている。
 もう一つ主張されているのが、野党は安部首相の退陣を求めているが、安部首相が辞めても代わりがいないという意見だ。これは比較的中立的な立場の人が主張していることが多い。冷泉彰彦氏は北朝鮮情勢の緊迫化を理由に安倍政権の継続を主張している。

www.newsweekjapan.jp

また、よしき氏は経済政策を理由に、適当な後継候補が上げられないと主張している。

tyoshiki.hatenadiary.com


 果たしてそうだろうか。北朝鮮問題と経済政策の二点から考えてみる。

北朝鮮問題
 トランプ大統領北朝鮮との和平を模索していたティラーソン国務長官を解任し、強硬派のポンペオ氏を後任に据えた。北朝鮮情勢が緊迫しており、政治的空白を生むのがリスキーだという意見には同意する。
 政権交代が起こると外交に断絶が生じ、不安定になりやすいのは確かだ。例えば、民主党政権時に、尖閣諸島で中国船を拿捕しても立件しないという自民党政権下の申し送りが継承されておらず、結果的に尖閣諸島を係争地化されてしまったのは政権交代の弊害と言って良い。

 だが、安倍首相が退陣し自民党の他の人が首相になったとしても、外交関係の閣僚を留任させれば、大きな混乱が生じるとは考えにくい。安部首相はトランプ大統領と一緒にゴルフをしたりして個人的に親しいというメリットはあるが、それが北朝鮮危機において事態の打開に寄与しているようには見えない。
 安部首相は「関わっていたら首相も議員も辞める」という答弁をして自ら今日の危機を招くなど、危機管理能力に優れているとは言い難く、朝鮮半島有事の際に適切に対処できるか不安が残る。危機管理という点では、外相時代目立った失点や失言が無かった岸田氏の方が優れているし、他の候補も安倍氏より劣っているということはないのではあるまいか。

2経済政策
 経済政策において、安部首相はリフレ派の期待を一身に背負っている。確かに、安部政権の金融緩和や消費増税延期は景気回復に一定の効果があったように見える。安部首相が続投すれば金融緩和は継続され、消費増税は延期されるが、交代すれば金融緩和は縮小、消費増税が実施されて不況がやってくるという主張も散見される。

 だが、金融緩和を行っているのは日銀であり、黒田総裁は再任されたばかりで五年間は交代しないから、首相が交代したからといっていきなり金融政策が大きく変更されるとは考えにくい。
 消費増税に関しては、石破氏ら主な首相候補が軒並み賛成しているのは確かだ。だが、安部首相も先の総選挙で、消費増税を実施し、使い道を子育て支援等に当てることを主に訴えて勝利している。安倍政権が続けば、予定通り消費増税が実施されると考えるのが自然だ。つまり、自民党政権が続く限り、どっちみち消費増税は実施されるのだ。
 総選挙で野党は消費増税の延期を訴えていたのだが、それをもって安倍政権支持から野党支持に鞍替えしたという人はあまり聞かない。

 民主党は消費増税しないと言っていたのに増税したから信用ならんという意見には一理あり、野党が政権を奪還しても結局消費増税になる可能性はある。とは言え、さすがに増税しないと言っている野党より増税すると言っている与党が政権を獲った方が増税しない可能性が高いということはないだろう。

 安部首相は一度消費増税を延期した実績があるから、また延期するのではないかと期待するのは分からないでもない。だが、安部首相は消費増税を実施し、使い道を変更することを国民に問うために、わざわざ600億円もかけて解散総選挙を行ったのである。確かに私も消費増税は延期すべきだと思うが、特に必要もない解散をしてまで国民に信を問うた公約を撤回するのもそれはそれで問題があるのではないだろうか。