東雲製作所

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ライトノベルとお約束ギャグ

 少し前に「アニメの寒い描写がきつい」という増田記事が話題になっていた。

anond.hatelabo.jp

 私も筆者が挙げている「女子のツッコミの過剰な暴力、寒いギャグやノリ、不自然なエロハプニング、シリアス展開中の不自然なギャグ」みたいなお約束ギャグはいらないと思っていたので、我が意を得たりだ。

 記事内で指摘されている通り、ライトノベルではこの種のお約束ギャグが多い。

 漫画に関してはブコメでAQMさんが「 1割くらい高橋留美子のせいのような気がせんでもない。」と指摘されていた。ライトノベルに関して言うと、スレイヤーズのヒットで、お約束ギャグが一気に広まったという印象がある。特に、富士見ファンタジア文庫で猛威をふるい、一時は大半の作品でお約束ギャグが使われていたと言っても過言ではない。

 だが、小説でギャグをやるのは難しい。漫才やコントは動きやタイミングの妙、声質で笑わせることができるし、漫画もデフォルメされた絵によってギャグのインパクトを増幅することができるが、小説には文字情報しかない。従って、小説では漫才や漫画に比べ、よりエッジの効いたネタでないと笑わせることができない。

 ライトノベルでも『スレイヤーズすぺしゃる』や『フルメタル・パニック!』のギャグはエッジが効いていて面白かったが、フォローワーのギャグはお約束をこなしているというだけで特に面白くないものが多い。
 ライトノベルはギャグ作品といってもストーリーがメインであることが多く、純粋なギャグ作品として成功したのは『撲殺天使ドクロちゃん』など、ごくわずかだ。『撲殺天使ドクロちゃん』では作者と担当二人の三人で多数決を行い、二人以上が面白いと判断したギャグしか使わなかったという。小説でギャグをやるのは並大抵のことではないのだ。

 お約束ギャグの問題は、面白くないとギャグをやって滑ったみたいになってしまうことだ。ギャグをやって滑るくらいなら、ギャグをやらなければ良いだろうと思うのだが、ライトノベル作家には淡々と話を進めることへの恐怖心を持っている人が多いように感じる。

 最近のライトノベルで特にお約束ギャグがいらないと感じるのが『りゅうおうのおしごと!』だ。『りゅうおうのおしごと!』には棋士の変人エピソードのような面白いギャグもあるのだが、八一のラッキースケベを銀子が殴るみたいなギャグは定番化していてあまり面白くない。
 凡才が天才にいかに立ち向かうかといったシリアスなテーマと、息もつかせぬ対局シーンが素晴らしいだけに、お約束ギャグが出てくると弛緩した印象を受けるし、読者の間口を狭めてしまっているように感じる。作者の白鳥士郎氏はお約束ギャグを入れないと不安なのかも知れないが、もっとご自身のシリアスシーンの素晴らしさに自信を持って欲しい。とは言え、百戦錬磨の白鳥氏が入れるという判断をされているのだから、お約束ギャグが好きな読者も多いのかも知れないが。

 

りゅうおうのおしごと! 7 (GA文庫)

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