東雲製作所

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大抵のことはアブよりはまし

 北海道出張では何日か森のなかで作業をした。北海道の森で最も恐ろしいのは熊である。熊よけ鈴にスピーカー、爆竹など万全の装備をして森に入ったが、幸い遭遇することはなかった。だが最もうざい奴に追い回された。アブである。
 アブは体長2~3センチ。ブオオオオオオというけたたましい羽音を響かせて人に近づいてきては執念深く付きまとってくる。アブが飛んでいる隙に素早く移動して撒いてやったと思っても、何故かじきに追いすがって来る。温度なのか嗅覚なのか知らないが、とにかく恐るべきしつこさである。私は長袖長ズボン長靴軍手に防虫ネットというフル装備で固めているので、まとわりついてきても全くの無駄。私は不快でアブは疲れるだけというlose-lose関係にも関わらず、それを理解できない奴らは服や防虫ネットの上を歩き回っては飛ぶを繰り返している。

 森の中に人が入ってくることなど稀で、他の野生動物の姿も見なかった。にも関わらずあんな猛烈に羽を震わせてエネルギーを消費していたら、すぐエネルギー切れで死んでしまうのではないか。そう思っていたが、後日ラジオで生物学者の本川達雄氏の解説を聞いて得心した。何でも、昆虫の羽ばたきは鐘のような共鳴の原理を利用していて、最初に一回羽ばたくだけでしばらく羽ばたき続けることができるのだという。何という効率的なうざさだ!

 中でも大変だったのが最終日だ。荷物が増えるのが嫌で、防虫ネットを置いてきたため、頭部をむき出しの状態で森に入った所をアブに襲われたのだ。奴は払っても払っても追いすがってくる。あまりに羽ばたきが煩いので、もうとまっていてくれた方がましかと、とまったのを放置していたら、頭を刺された。一度刺すと、今までのように軽く払ったくらいでは飛び立たない。直接アブを押すような感じでようやく引き剥がすことができた。感染症の恐れもあるし最悪である。

 今まで私はゴキブリを最悪な虫だと思っていたが、奴らは人に遭遇すると逃げていく。蜂は恐ろしいが、こちらから攻撃しなければ刺してこない。だが、アブは人間を刺すべく、向こうから近づいてくるのだ。
 何か悩みがある人は一度森に入ってアブに付きまとわれてみると良い。大抵のことはアブよりはましだと思えることだろう。