東雲製作所

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取り返しがつく犯罪に共謀罪はいらない

 改正組織犯罪処罰法(テロ等準備罪共謀罪)が7月11日に施行された。本ブログは基本的に政治的なことは書かないようにしているのだが、例外的に一点指摘しておく。
 改正組織犯罪処罰法には277の罪が対象となっている。法務省は対象犯罪を下記の5つに分類している。

1テロの実行に関する犯罪 110
内覧等幇助、傷害、強盗、拳銃等の輸入、航空機の強取等、化学兵器の使用 など

2薬物に関する犯罪 29
あへん煙輸入等、大麻の栽培等、覚せい剤の輸入等 など

3人身に関する搾取犯罪 28
強制わいせつ、強姦、強制労働、在留カード偽造等、臓器売買等 など

4その他資金源犯罪 101
通貨偽造及び行使等、有印公文書偽造等、切手類の偽造等、特許権の侵害、著作権等の侵害等 など

5司法妨害に関する犯罪 9
逃走援助、偽証 など

 改正組織犯罪処罰法は対象犯罪を実行しなくても、計画・準備段階で処罰できるようにする法律だ。この法律の利点は、警察が対象犯罪を未然に防ぐ権限を得る点であり、欠点は警察がこの法律を乱用する権限を得る点である。どちらを重く見るかはその人の価値観による。
 例えば、化学兵器の使用のような犯罪は、起きてからでは取り返しがつかない。私自身は、現行法でも最高裁によって詐欺罪や建造物侵入罪の広い適用が認められているので不要ではないか、という高山佳奈子教授の意見を支持しているが、取り返しがつかない犯罪について少しでも予防の可能性を高めるべきではないかという意見にも一理あると思う。

 だが、資金源犯罪を対象犯罪に含めることにはびた一賛成できない。これらの犯罪は取り返しがつくからだ。
 例えば、犯罪組織が資金源を得るため、切手の偽造を企んでいたとしよう。確かに、切手の偽造で大量の資金を獲得し、その資金を活用して武器を購入し、テロを実行したら大変だ。だが、それは実際に切手の偽造をしてから逮捕すれば良いのであって、準備行為をしている段階で逮捕する必要はない。切手の偽造が実行された途端に、心身に取り返しがつかないダメージを負う人など誰もいないからだ。

 テロ行為のような取り返しがつかない犯罪について計画・準備段階で処罰する法律が必要かについては様々な意見がある。だが、切手類の偽造を計画した段階で逮捕できる法律が必要ないことは、ほとんどの人の間で合意が得られるだろう。にも関わらず、対象犯罪について一切の修正がなされずに成立、施行されてしまったことは残念でならない。