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南渓和尚キュゥべえ説――おんな城主直虎第6回感想

(本稿は『おんな城主直虎』第6回と『魔法少女まどか☆マギカ』のネタばれを含みます。)

 NHK大河ドラマ『おんな城主直虎』(森下佳子作)は全く期待しておらず、おとわが可愛いから見始めただけだったのだが、登場人物の葛藤が丁寧に描かれていて面白い。

 第6回で主人公次郎法師は想い人の直親から、次郎法師は死んだことにして夫婦になろうと提案される。思い悩む次郎に南渓和尚が語ったのが中と伯の話だ。
 道威という王に、甲乙つけがたい二人の大臣、中と伯がいた。どちらかを選ばねばならなくなった道威は二人に饅頭を二個ずつ渡した。二人とも一個は自分で食べたが、もう一個を中は子供にやり、伯はとっておいてカビさせてしまった。一見中の方が賢明なようだが、道威が選んだのは伯だったという。
 これを聞いた私はなるほど、伯仲という言葉にはこんな語源があったのか。勉強になったわいと思い、検索してみた所、そんな古典は存在せず、南渓和尚の創作だということが判明した。つまり、南渓和尚は次郎法師が井伊家のためにカビた饅頭となるよう誘導すべく、もっともらしい話をでっち上げたということになる。
 何という卑劣漢!

 次郎に「井伊家のため、こらえてくれぬか」と頼むのならまだ良い。だが、南渓の野郎は井伊家想いの次郎ならこうするだろうと計算して、自らの手は汚さずに目的を達成したのだ。妹の佐名が恥知らずと怒っていたのももっともだ。
 なんか、こういう少女の自主性を尊重するふりをして言葉巧みに誘導し、過酷な運命を背負わせるキャラに既視感があると思ったら、『魔法少女まどか☆マギカ』のキュゥべえだった。一見善良そうな所もそっくりだ。

 ただ、南渓和尚を単純な悪と言ってしまって良いのかは疑問が残る。なぜなら、南渓和尚が次郎法師を誘導したのには、次郎が誰かの妻になるより当主になるほうが向いていると考え、次郎の幸せのためにしたという面も無きにしもあらずだからだ。
 真田丸真田昌幸もそうだが、主人公の傍らに善とも悪とも言えない偉大な存在がいると話にぐっと深みが出る。南渓和尚は物語を面白くするという意味では非常に良いキャラであると言わざるを得ない。

 

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