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99%アウトサイダー――面白ければなんでもあり感想

 「灼眼のシャナ」「とある魔術の禁書目録」「ソードアート・オンライン」。三木一馬氏はブギーポップ以降の電撃の大ヒット作ほとんど全てに関わっている辣腕編集者である。もし三木氏がメディアワークスではなく他社に入社していたら、ライトノベル界の勢力図が変わっていたのではないだろうか。
 その三木氏が仕事の秘訣を明かした本、『面白ければなんでもあり 発行累計6000万部――とある編集の仕事目録』(KADOKAWA)が発売されたというのでさっそく読んだ。超面白い。創作論として参考になるのはもちろん、超人、変人だらけのキャラクター小説としても一級品だ。三木氏本人のワーカホリックも凄まじいが、鎌池和馬氏のエピソードは能力者レベルだ。

 本書を読んでつくづく感じたのが、三木氏が小説界のアウトサイダーだということだ。
 氏は編集者になるまで、ほとんど小説を読んだことがなく、電撃文庫編集部に配属されてから初めて電撃文庫を読んだのだという。
 三木氏が小説という表現形式に思い入れを持っていないことは、本書の内容に如実に現れている。本文295ページ中、小説ならではの要素である文章について書いている箇所は4ページ、たった1%しかない。他の部分は作品の方向性、キャラクター、パッケージデザイン、タイトルなど他のエンターテイメントにも共通して役立つ指摘ばかりなのだ。

 三木氏の特徴として、電撃小説大賞に落選した作家を数多く担当しているということが挙げられる。鎌池和馬氏、佐島勤氏、入間人間氏、おかゆまさき氏といった人気作家は皆電撃小説大賞落選からの拾い上げ組である。小説界のインサイダーである下読みや選考委員は彼らの作品を高く評価しなかった。従来の基準による小説の完成度に頓着しない三木氏だからこそ、彼らの価値に気づくことができたのではないだろうか。

 本書を読む限り、三木氏は編集者じゃなくても、映画プロデューサーのような仕事はもちろん、商社マンのような全く畑違いの職種でも成功できる人材である。
 森博嗣氏が以前、小説業界は小説好きしかいないのが問題であるという趣旨の指摘をされていた。森氏や三木氏のような有能なアウトサイダーをどれだけ取り込めるかが、小説業界の浮沈を握っているのではないだろうか。

 

 

面白ければなんでもあり 発行累計6000万部――とある編集の仕事目録

面白ければなんでもあり 発行累計6000万部――とある編集の仕事目録