東雲製作所

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特殊から普遍へ――のんのんびよりりぴーと感想

のんのんびより(あっと原作、川面真也監督)は五人しかいない旭丘分校の生徒達の田舎暮らしという特殊な生活を描いたアニメだ。東京から田舎に引っ越してきた小学生の蛍視点で都会と田舎のギャップを描くコメディーというのが当初の構図であった。田舎生活のギャップというのは一貫して本作の笑いの主軸となっており、続編である「のんのんびより りぴーと」においても「庭で携帯を高く掲げないと電波が入らない」といった田舎ネタがしばしば登場する。だが、回が進むにつれ、田舎の子供についての話というよりは、より一般的な子供についての話が増えている。
例えば、蛍を見に行ったりするのは田舎ならではの体験だが、花火をしたり、自転車の練習をしたり、お花見をしたりするのは多くの人に共通の体験だ。自分とは異なる価値観を持つ子供たち(=他者)の話だと思って見ていた視聴者は、いつの間にかれんげ達に自らの過去を投影して見ていることに気づくだろう。内容がより普遍化しているのだ。

定規落としというものがあったことを、私は本作を見るまですっかり忘れていた。そういう子供時代の記憶を呼び起こしてなつかしい気持ちにさせるというだけでも素晴らしいのだが、のんのんびよりはより心の深層に働きかける。

例えば、のんのんびよりりぴーとの第一回で明日から小学一年生になるれんげが校庭を振り返り「向こうまで道しるべ見えない」と明日への不安を吐露するシーンがあるのだが、私はそのシーンを見た時泣きそうになった。小学校に入学する前の記憶が蘇ったという訳ではなく、思い出せないにも関わらず心の奥底の何かを刺激されたのだ。ユングの言うところの集合的無意識に訴えかけられたのかも知れない。
のんのんびよりりぴーとでは、れんげに関するエピソードを中心に何度か集合的無意識のようなものを揺さぶられた。女の子が可愛いだけの萌えアニメでしょ、と思っている人にこそ見て欲しい作品だ。