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判断を留保する主人公――響け!ユーフォニアム感想

『響け!ユーフォニアム』(石原立也監督、京都アニメーション)についてはアニメ「響け!ユーフォニアム」を通して見る揺れる心「響け!ユーフォニアム」の滝先生にモヤモヤする件などネット上に次々と優れた評論が発表されている。これは単に『響け!ユーフォニアム』が面白いからというだけではなく、作品の構造そのものに原因がある。

日常系のような作品を除き、物語には対立構造が存在する。通常主人公はどちらかの陣営に属しており、ライバルが敵陣営に属している。
『響け!ユーフォニアム』にも「全国大会出場」か「楽しい思い出を作る」のかという対立構造が存在する。これは部活ものにはしばしば現れるテーマだ。主人公は上を目指しており、楽しい思い出派がその情熱にうたれて変わっていくというのが典型的なパターンだが、その逆で楽しくやりたい主人公達が規律を押し付けてくる生徒会や教師と戦うというストーリーも散見される。

だが本作の主人公久美子はそのどちらでもない、極めて中立的な立場を取っている。滝先生にどちらを目指すのか問われ多数決を取った時、久美子はどちらにも手を挙げなかった。吹奏楽部の「暴れん坊将軍」の演奏には「駄目だこりゃ」と否定的感想をもらす一方で、本気で全国大会を目指すほどの情熱もない。中学時代に全国大会には行けない金賞を取って満足していたシーンが象徴的だ。こういう主人公は珍しい。普通の作者だったら葉月か麗奈を主人公にするだろう。

『響け!ユーフォニアム』は久美子視点で描かれている。従って、「全国大会出場」か「楽しい思い出を作る」のかという対立構造に関して、作り手はどちらにも肩入れしておらず、作品としてどちら側にも立っていない。関先生に関しても麗奈のように心酔した立場でもなく、かと言ってサボり気味な部員たちのように嫌っているわけでもない立場から描かれている。どちらが優れているかの判断は視聴者に委ねられている。

水戸黄門』のような作品は黄門様ご一行が善で、悪代官が悪であるという解釈が作り手によって予めなされているため、視聴者は何も考えずご老公側に肩入れして見ることができる。作品内で発生したもやもやはラストで善が一刀両断し、カタルシスを産む。だが、『響け!ユーフォニアム』では、もやもやがもやもやのまま放置され、正解は示されない。視聴者は自分なりに考え、解釈してもやもやを解消しなくてはならない。これがこの作品が多くの評論を生みつつある理由だろう。

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