東雲製作所

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戦場の最後のバカと蒲公英さくら花園ホームの英雄小説295円(笑)

長期出張に行っていたため、やたらと間が開いてしまいました。鉄球姫エミリーの感想が二冊も入ってるし……


小説修行 小島信夫保坂和志 中公文庫
「結論めいたことが出てきてしまうと、読者でなくて自分自身がそれにだまされてしまうからです。本当に考えようとしていることはもっとずっと茫漠としているからです。」
「小説の結末が保証されていて、その結末から書いたり読んだりすると、小説の中の出来事は<意味>に収斂されてしまいますが、結末がどうなるともわからないまま書いていると出来事は<行為>として放り出されます。人間は<意味>を生きているのではなくて、<行為>を生きているのです。」
といった保坂氏の文学感のエッセンスを凝縮した言葉がたびたび登場して唸らされる。
一方、小島氏のパートには抜き出せるような言葉がほとんどなく、保坂氏よりさらに徹底して茫漠たることを表している。

秘曲 笑傲江湖 1.殺戮の序曲 金庸著/岡崎由美監修/小島瑞紀訳 徳間書店
出てくるキャラ出てくるキャラ、端役のような奴までやたらとキャラが立っており、そいつらが好き勝手に暴れまわっているという印象で、三銃士を思わせる純エンターテイメント小説。
冷酷な敵役として登場する余滄海とその一門だが、他の豪傑たちにぼかすか殺されたりいたぶられたりしていて、むしろ気の毒だ。

ベン・トー2 ザンギ弁当295円 アサウラ 集英社スーパーダッシュ文庫
出張に行く電車の中で読んでいたのだが、車内が混んでいて手元に弁当が買ってあるにも関わらず食えないという状況で、もう読んでいて腹が減ること腹が減ること。
読む前は正直「こういう一発ものは続けない方が良いのに」と思っていたのだが、ギャグは益々破壊的だし、バトルは燃え上がり、さらには思わず落涙しそうになるシーンもありと盛りだくさんな、まさに弁当のような内容で、大満足だった。

Θ 11番ホームの妖精 藤真千歳 電撃文庫
ライトノベルには珍しい超ばりばりSFで、それは舞台設定やアイテムもそうなんだけど、何より世界に対峙する人間を書いているところがSFなのだろう。
そのうち詳しい感想を書くと思うので、どうでも良いことを書くと、102頁付近のイラストを入れるためだけに付け加えたみたいなシーンはどうかと思います。

花園のエミリー 鉄球姫エミリー第三幕 八薙玉造 集英社スーパーダッシュ文庫
長期シリーズは大概巻を重ねると展開が緩やかになるものだが、これはより怒涛の展開になっているではないか!
最初はただの冷酷な敵役だったジョゼフだが、ここに来てぐっと味のある男になっているなあ。

銀河英雄伝説2 野望編 田中芳樹 徳間文庫
出てくるキャラ出てくるキャラ、端役のような奴までやたらとキャラが立っているが、キャラクター中心の話ではなく、むしろそのキャラクター達を翻弄する歴史のうねりを描いていてつくづくスケールがでかい。
こういう小説を日本人作家が書くと、主人公の一人を日本人にするか、あるいは日本人を全然出さないかになりがちだが、本作では日本人がやたら地味な役割で登場するところが世界市民的だ。

バカとテストと召還獣 井上堅二 ファミ通文庫
タイトル通りのバカ小説なのだが、タイトル通りテスト小説でもあり、作者は結構真面目な人なんじゃないかと思った。
落ちこぼれだけどとんがった才能を持つ集団が頑張る様はEGコンバットを彷彿とさせる。

蒲公英草紙 常野物語 恩田陸 集英社文庫
たおやかで優しくて宝物のような日々を描いているのだけれども、一方で、『カラマーゾフの兄弟』のような哲学的対立をも内包しているすごい小説。
二十世紀初頭の岩手を舞台にした話なのだが、殆どエデンの園のような理想郷として描かれていて、その居心地の良さにどっぷりとつかりきっていただけに、こういう終わり方をされるとしんどいなあ。

AURA〜魔竜院光牙最後の闘い〜 田中ロミオ ガガガ文庫
ライトノベルを含むおたく文化は、変であることを無条件に肯定しているところがあって、それは他人が変であることに寛容であるという点では素晴らしいことだが、自分が変であることを容認してもらっているという点では、単なる現実逃避なんじゃないの? という指摘もまた正しいわけで、本作は、その両面をぶつかり合わせることで、『カラマーゾフの兄弟』(またか)の如く、世界の全てを含んだ小説にすることに成功している。
私自身、本書で描かれているような妄想戦士とは無縁なのだが、将来光の戦士になると言っているのも、小説家になると言っているのも、根っこの部分では大して変わらん気がしてきた。

さくらファミリア杉井光 一迅社文庫
いつもとまるで違う!という書評が多かったのだけれど、『ハーレム状態のにぶちん少年が突っ込みまくる一人称』で『(広義の)家族の絆』を描く『ミステリー』という基本構造が共通しているので、そんなに違う感じはしなかった。
作者はあとがきで全然資料を使わなかったと書いているが、それでいてちゃんとしたキリスト教の異端的解釈が盛り込まれているあたり、やはりただ者ではない。

戦場のエミリー 鉄球姫エミリー第四幕 八薙玉造 集英社スーパーダッシュ文庫
私は普段家ではあまり本を読まないのだが、本書は買ってきてから夢中で読み続け、読みきってしまった。
『チェスの指し手』と『チェスの駒』の対立が物語の主軸になっているのだけれど、『チェスの指し手』が言っていることは血肉を欠いており、その血肉こそ小説が描くべき領域なのだと感じた。