東雲製作所

東雲長閑(しののめのどか)のよろず評論サイトです。

時時狼先生の庭だな感想

帰省先の図書館は司書さんが目利きなのに対し、利用者はあまり目利きではないらしく、これはっ!という本が(貸し出されずに)棚に並んでいました。

時載りリンネ!1はじまりの本 清野静 角川スニーカー文庫
子ども達がどこまでだって進んでいけるような明るさを持っているところや、札幌なんだけど世界のどこでもなく、また、どこでもあるような町並みなどから「やかまし村」みたいな海外の少年少女向け文学の香りがして無茶苦茶なつかしい。
敵が意味もなく猶予を与えてくれることや、切り札が強力すぎることがバトルの緊張感を殺いでいるが、それすらも全体の牧歌的雰囲気と合っていて一概に欠点とも言えない。

滴り落ちる時計たちの波紋 平野啓一郎 文春文庫
九編の様々な技術を惜しみなく披露したような小説群から成っており、中でも『初七日』の最後の鮮烈さに感じ入った。
横書きで全体の三分の一以上を占める『最後の変身』はたしかに文体はブログ的だが、内容は『人間失格』の延長線上にあるものだし、何よりブロガーを客観視できているので、縦書きの視点だと感じた。

狼と香辛料V 支倉凍砂 電撃文庫
ああっ、もうっ!ごろごろ(床を転がる音)
それはともかく、エーブがそうでなかったらどうなっていたのだろう。

でかい月だな 水森サトリ
犯罪被害者の心の揺れを丁寧に描いていて心が苦しくなる。
それ故に、前半は作者が物語が走りすぎないよう手綱を絞っている感じだったが、ツンデレが登場してからは、物語が疾走していて楽しい。

僕僕先生 仁木英之 新潮社
王弁が何故僕僕先生に気に入られたのかと考えてみるに、仙道に興味が無かったからではないだろうか。
これは、政治家になりたい人しか政治家にならないことの弊害などに通じる問題で、特になりたいものがないニートの生きる道のヒントになっている。

世界の果ての庭 ショート・ストーリーズ 西崎憲 新潮社
多数の短編から成っており、読み始めて数編目で何じゃこりゃあと驚愕したが、『矛盾都市TOKYO』に比べれば親切である。
各ストーリーは一応エピソードによってもかろうじて繋がっているのだが、それよりもむしろ「影」といった観念によってより強く結び合っている所が通好みだ。