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東雲製作所

東雲長閑(しののめのどか)の書評サイトです。ジオシティーズ(http://www.geocities.jp/shinonomenod/)から移転してきました。

砂漠宇宙悪魔魔術のワンダフルな思考法感想

一ヶ月近く更新を溜め込んでしまった。

悪魔のミカタ666 スコルピオン・オープニング うえお久光 電撃文庫
久しぶりの悪魔のミカタはリピドーが炸裂している箇所と、ミステリーな箇所が良かった。
それにしても何でこの人達はこんなにテキトー成分が不足しているんだ、と思い、「大人になるということは、適当さを得る代わりに他の全てを失うことだ」という箴言を思いついたのだが、多分間違っている。

沙漠の国の物語―楽園の種子 倉吹ともえ ルルル文庫
あまり性別によって能力が異なるということを言うものではないとは思うのだが、こういうのを読むと、断片の集積ではなく一本の太い筋としての小説を創り上げる能力――物語る能力は女性の方が上なのかなあ、と思ってしまう。
「対になっているもの」をこつこつ積み上げていったのが最後で効いている。

広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由 フェルミパラドックス スティーブン・ウェッブ/松浦俊輔訳 青土社
「計算上、多数の地球外文明が存在するはずなのに、証拠が見つからないのは何故か」というフェルミパラドックスに関する説を50個集めた本で、説が極めてバラエティに富んでいるところが面白く、特に「われわれはみんなエイリアン」「みんな聞き耳をたてているが誰も送信していない」「いつも曇り空かいつも昼で天文学が発達しない」といった説が気に入った。最も感心したのは、デルタt論法(自分があるものを見ていることに特別のことがない場合、関連する知識がなければ、その物は、今の年齢の三十九分の一から三十九倍の間続く可能性が九十五パーセントある)により人類の寿命は十八万年ないし七百万年程度と見積もれるという考え方で、殆ど何の手がかりもない所からそれなりに説得力のある数字を弾き出してしまうアクロバティックさが素晴らしい。
筆者は様々な理由により地球に異星人が通信を試みないという説を、全ての異星人がそうであるとは思えないという理由で退けているが、銀河に存在する異星人が少数であるなら、「一つの文明は内向的で、一つは曇り空で、一つは地球を環境保護区にしており、一つは電波の技術がない」といった理由でまだコンタクトが実現していない可能性はある。しかし、一つの星系に生れる知的生命体の数の期待値が1以下なら、0.1だろうが0.000000000000000000000000001だろうが銀河系に存在する数は1になるのだから、銀河系には我々しかいない可能性は残念ながらわりと高いのだろう。

羽生 「最善手」を見つけ出す思考法 保坂和志 光文社知恵の森文庫
棋士羽生善治に棋風がないのは「どちらが最善手かわからないときに、「これが私の棋風だから」という言葉に逃げずに、さらに深く読」むためだ、という指摘に目から鱗が落ちた。
「読みたくなくても読めてしまうことが、プロ棋士の欠点となる」とか、「羽生は自分の将棋観を人と共有し、将棋に関して言語化されていない部分を減らしていこうとしているのだと思う」とか、将棋だけでなく、小説など他のあらゆるジャンルにもあてはまる箴言がいっぱいだが、むしろ将棋の教本として並の定石書などよりも優れているのではないか、と思った。

ワンダフル・ワンダリング・サーガ 矢治哲典 ファミ通文庫
サラリーマンディティールがしっかり書き込まれており、また、ネタばれなので書けない大設定もしみじみと心に染みて、サラリーマンたる私は電車の中で涙をこらえるのに必死だった。
親の不在の問題とも関係するけど、大人になることを肯定できないということが、多くのライトノベルの抱える課題であり、そんな中きちんと大人を描いた本作の誠実さが光っている。

とある魔術の禁書目録SS 鎌池和馬 電撃文庫
このシリーズは一話で一箇所超絶ぐっとくるところがあるので、四話収録の本巻はいつもより四倍お得である。
さらに、いつもは燃えるぐっときかたなのだけれど、今回はしみじみと胸に迫るぐっときかたになっていて、特に「イギリス清教の女子寮」の静かで文学的なぐっときかたは作者の新境地と言えよう。