東雲製作所

東雲長閑(しののめのどか)の書評サイトです。ジオシティーズ(http://www.geocities.jp/shinonomenod/)から移転してきました。

書評

2017小説年間ベスト10

東雲長閑が2017年に読んだ小説のベスト10です。2017年発売作品のベスト10ではありません。 万延元年のフットボール 大江健三郎 講談社文庫ノーベル文学賞受賞作家の代表作だけあって、非常に読み応えがある。感想を書く度に新しい発見があって、感想記事を三…

他者に向かって叫ぶべき本当の事――万延元年のフットボール感想

(本稿は『万延元年のフットボール』の抽象的ネタバレを含みます。) 『万延元年のフットボール』はノーベル賞作家大江健三郎氏の代表作だ。だが、新作と戦前の文豪の間のエアポケットに入ってしまって、最近ではほとんど話題になることがない。確かに難解な…

コンピューターにできること――ベストセラーコード感想

『ベストセラーコード 「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム』(ジョディ・アーチャー&マシュー・ジョッカーズ著、解説西内啓、川添節子訳、日経BP社)はアメリカのベストセラーをコンピューターを用いて分析した本だ。テーマ、プロット、文体、…

ライトノベルとお約束ギャグ

少し前に「アニメの寒い描写がきつい」という増田記事が話題になっていた。 anond.hatelabo.jp 私も筆者が挙げている「女子のツッコミの過剰な暴力、寒いギャグやノリ、不自然なエロハプニング、シリアス展開中の不自然なギャグ」みたいなお約束ギャグはいら…

不条理な欠落――その女アレックス感想

(本稿は『その女アレックス』の抽象的ネタバレを含みます。) 物語は欠落を回復する過程を描いたものだ。桃太郎のおじいさんとおばあさんには子供が欠落しており、シンデレラは地位と伴侶が欠落している。欠落は自分のミス、不運、敵による侵害など様々な要…

戦略としての小説家――ライトノベル・フェスティバル2017(ゲスト森田季節先生)感想

まずは小説二作品の本編冒頭部分を読み比べて頂きたい。 「焼いたフルーツってずるい味がする」 二切れ目の焼きパイナップルを口に入れる前につぶやく。率直な感想なんだけど、我ながらいまいち要領を得ない表現だ。「ずるいって何だよ?」 ほら、広峰には伝…

異なったリアリズムの混在――コンビニ人間感想

(本稿は『コンビニ人間』の抽象的ネタバレを含みます。) 不気味さの谷という言葉がある。人間とは全然違うロボットや人間と見分けがつかないロボットは不気味ではないが、人間のようで微妙に違うような外見や動きのロボットは不気味に感じることを指す。 …

アイデア大全のアイデア創出法を整理する

読書猿氏と言えば、知的で役に立つブログ、「読書猿Classic: between / beyond readers」で有名である。物語作者がチラシの裏に書くべき7つの表/もうキャラクター設定表はいらないは小説を書く時お世話になっている。 そんな読書猿氏初の著作が『アイデア…

エンタメとして評価すべき――罪と罰感想

(本稿は『罪と罰』のあからさまなネタバレを含みます。) 『罪と罰』(ドストエフスキー著、工藤精一郎訳、新潮文庫)は人間の罪に関する深い洞察を含んだ高尚な純文学であると思われている。例えば、下巻の裏表紙には「ロシア思想史にインテリゲンチャの出…

酷い目に遭いたいという欲望――ぼくは明日、昨日のきみとデートする感想

(本稿は『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の抽象的ネタバレを含みます。) 『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(七月隆文著、宝島社文庫)を読んで、非対称性に居心地の悪さを感じた。本作の恋愛は構造的困難さを抱えており、その負荷は男女が均…

小説とドラマの違い――猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち感想

(本稿は『猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち』の内容に触れています。) 『猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち』(大山淳子著、講談社文庫)は面白くないシーンが一つもない。 小説の冒頭、満席の新幹線に乗ってきた二人組が「切符あるのに席ないわけ…

影響が残るという微かな希望――Re:ゼロから始める異世界生活感想

(本稿は『Re:ゼロから始める異世界生活』第一章のあからさまなネタバレを含みます。また、第一章の感想なので、最新刊まで読んでいる人にとっては今更何を言っているんだという内容だと思われます。) 小説家になろうで公開されている『Re:ゼロから始める異…

現代の福音書――アズミ・ハルコは行方不明感想

(本稿は『アズミ・ハルコは行方不明』の抽象的ネタバレを含みます。) 『アズミ・ハルコは行方不明』(山内マリコ著、幻冬舎)読了。こんな小説は読んだことがない。 普通の小説は何頁か読めばある程度先の展開が分かる。ミステリーなら謎の解明、恋愛小説…

力の及ぶ限りの努力――職業としての小説家感想

(本稿は『職業としての小説家』の内容に触れています。) 『職業としての小説家』(村上春樹著、スイッチ・パブリッシング)は村上氏が創作について語った本だ。通常の小説の書き方本には書いていない、感覚にかんする具体的な心構えが記されていて、参考に…

2016小説年間ベスト10

東雲長閑が2016年に読んだ小説のベスト10です。例によって2016年発売作品のベスト10ではありません。 2016年のまとめなのにぐずぐずしている内に1月末になってしまいました。 りゅうおうのおしごと!3 白鳥士郎 GA文庫 「このライトノベルがすごい!2017…

緊張の緩め方――晴天の迷いクジラ感想

(本稿は『晴天の迷いクジラ』のネタバレを含みます。) 窪美澄氏はデビュー作『ふがいない僕は空を見た』でいきなり山本周五郎賞を獲得。本屋大賞2位になった気鋭の作家だ。デビュー作を読んだ時はあまりのすごさに打ちのめされたが、二作目である『晴天の…

当たり前な不都合な真実――痩せる筋トレ痩せない筋トレ感想

数年かけて5キロほどの減量に成功した。だが、同時に代謝も落ちて太りやすくなってしまった。そこで筋肉をつけようと「痩せる筋トレ痩せない筋トレ(比嘉一雄著、ベスト新書)」を手にとった。 「痩せる筋トレ痩せない筋トレ」は当たり前のことが書いてある…