東雲製作所

東雲長閑(しののめのどか)のよろず評論サイトです。

書評

下読み男子と投稿女子感想

(本稿は『下読み男子と投稿女子』のネタバレを含みます) 『下読み男子と投稿女子~優しい空が見た、内気な海の話。』(野村美月著、ファミ通文庫)は新人賞の下読みをテーマにしたライトノベルだ。二時間ぐらいで一気に読み切ってしまった。さすが野村氏だ…

チェンソーマン127話感想

(本稿は『チェンソーマン』127話のあからさまなネタバレを含みます。ネタバレが嫌な人はジャンプ+で先に読んで下さい。5月2日まで無料で読めます。) shonenjumpplus.com 先週の『チェンソーマン』127話(藤本タツキ著、集英社)には感銘を受けた。嫌なこ…

乙一「プロットの作り方」感想――型を使ってこそ自由に創作できる

『ミステリーの書き方』(日本推理作家協会編著、幻冬舎)を読んでいる。480ページもある分厚い本で、日本推理作家協会に所属する43名の著名作家がそれぞれの得意分野について創作法を伝授してくれるという贅沢な本だ。中でも乙一氏による「プロットの作り方…

大どんでん返し創作法感想

『大どんでん返し創作法:面白い物語を作るには ストーリーデザインの方法論』(今井昭彦著、PIKOZO文庫)はラジオCMディレクターとして小説や漫画のCMを1000本以上作ってきた筆者による小説の書き方本だ。面白いストーリーを作るために最も重要なのはどんで…

推し、燃ゆ感想――少しでも良くしようする意思

(本稿は『推し、燃ゆ』のあからさまなネタバレを含みます。) 『推し、燃ゆ』(宇佐見りん著、河出書房新社)は上手く生きられない主人公あかりがアイドル上野真幸を命がけで推す小説だ。一読して、あまりの文章の上手さに驚嘆した。 あたしは彼と一体化し…

小池一夫のキャラクター進化論(1)感想

小池一夫氏は『子連れ狼』などで知られる作家、漫画原作者だ。「劇画村塾」や大阪芸術大学の小池一夫ゼミを開き、高橋留美子、原哲夫、板垣恵介、椎橋寛といった漫画家を育成されている。『小池一夫のキャラクター進化論(1) 漫画原作マル秘の書き方』(小池…

クライマーズ・ハイ感想――冴えないおじさんの人生だって面白い

(本稿は『クライマーズ・ハイ』の抽象的なネタバレを含みます。) 『クライマーズ・ハイ』(横山秀夫著、文藝春秋)は日航機墜落事故を報じる北関東新聞社内の出来事を追った2003年の小説だ。読んで感じたのはこの20年でエンタメセオリーが大きく変化したと…

天才とは量をこなせること――売れる作家の全技術感想

『小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない』(角川書店)は『新宿鮫』などで知られる大沢在昌氏による小説の書き方本だ。天才が書いた本なので天才にしか役に立たない。 いや、役に立たないは言い過ぎで、凡才にも部分的には役に立つ…

盤上の向日葵感想――100日間のどこかで死ぬワニの周囲の誰か

(本稿は『盤上の向日葵』の抽象的なネタバレを含みます。)『盤上の向日葵』(柚月裕子著、中央公論新社)は将棋を題材にしたミステリーだ。563ページもある長編だが、この先どうなるんだという興味でぐいぐい読まされ、特に後半は一気読みした。 『100日後…

スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました感想

『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』(森田季節原作、木村延景監督)(以下スラMAX)は異世界に転生し不老不死になった主人公アズサが、300年間コツコツスライムを倒していたら最強になっていたという出落ちのような小説が原作…

流感想―人生は素晴らしいものであってくれという祈り

(本稿は『流』の抽象的なネタバレを含みます。) 『流』(東山彰良著、講談社)は1980年前後の台湾を舞台にしたマジックリアリズム小説だ。 抗日戦争から現代へと続く堂々たる大河小説であり、初恋を描いた瑞々しい青春小説であり、鮮やかなミステリーでも…

たった40分で誰でも必ず小説が書ける 超ショートショート講座感想

『たった40分で誰でも必ず小説が書ける 超ショートショート講座』(田丸雅智著、キノブックス)は各地でワークショップをやっているショートショート作家の田丸氏が、誰でも必ずショートショートが書けるというメソッドを開示した本だ。本当に誰でも書けるのか…

『ゆるキャン△12』感想―好きなことをやる自由とリアリティレベル

(本稿は『ゆるキャン△12』のネタバレを含みます。) 『ゆるキャン△12』(あfろ著、芳文社)はドラマも放送中の大人気キャンプ漫画の最新刊だ。12巻は千明、あおい、恵那の三人が行った瑞牆山キャンプの回想が描かれる。 私はなでしこが大好きなので、三人…

プロ作家になるための四十カ条感想

『プロ作家になるための四十カ条』(若桜木虔著、KKベストセラーズ)は加藤廣氏など18名の生徒をプロデビューさせたという小説家養成講座の講師が書いた小説の書き方本だ。普通の小説の書き方本が面白い小説を書く方法を説いているのに対し、本書は新人賞を…

本屋大賞作家のデビュー新人賞まとめ

作家になるのは大変だが、作家になってから生き残るのも大変だ。作家としてデビューしても、本が売れなければ新刊が出せなくなってしまう。作家としてやっていくにはただの作家ではなく人気作家にならなくてはならない。 人気作家の証の一つが本屋大賞だ。書…

真実の10メートル手前感想――計算された駆動力

(本稿は『真実の10メートル手前』の抽象的ネタバレを含みます。) 『真実の10メートル手前』(米澤穂信著、東京創元社)はフリージャーナリスト大刀洗万智の活躍を描いた連作ミステリー短篇集だ。ほとんどの作品にろくでもないおじさんが登場し、ろくでもな…

明るい未来は自分で見つける――ゆるキャン△11巻感想

(本稿はゆるキャン△11巻のネタバレを含みます。) ゆるキャン△(あfろ著、芳文社)はアニメ化、ドラマ化された大人気キャンプ漫画だ。11巻はリン、綾乃、なでしこの三人による大井川キャンプが描かれる。 // リンク リンと綾乃がバイクで、なでしこが電車で…

女のいない男たち感想――嵐の中では語れない

(本稿は『女のいない男たち』のネタバレを含みます。) 『女のいない男たち』(村上春樹著、文藝春秋)は2014年に刊行された、「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」「独立器官」「シェラザード」「木野」「女のいない男たち」の六編からなる短篇集だ。…

かがみの孤城感想――なぜ主人公を変えなかったのか

(本稿はネタバレに配慮してはいますが、抽象的にはあからさまなネタバレを含みます。) 『かがみの孤城』(辻村深月著、ポプラ社)は2018年本屋大賞受賞作だ。七人の不登校児が鏡の中の城に集まって何でも願いが叶う鍵を探す話で、細やかな心理描写に引き込…

蜜蜂と遠雷感想――空とケレン味

(本稿は『蜜蜂と遠雷』の抽象的ネタバレを含みます。) 『蜜蜂と遠雷』(恩田陸著、幻冬舎)はピアノコンクールを舞台に、タイプの違う天才達がしのぎを削る、音楽バトル小説だ。本作の大きな魅力は、作者自ら天下一武道会に例えるケレン味だ。全選手入場的…

人類の未来 AI、経済、民主主義感想――イメージに囚われず論理的に考える。

『人類の未来 AI、経済、民主主義』(ノーム・チョムスキー、レイ・カーツワイル、マーティン・ウルフ、ビャルケ・インゲルス、フリーマン・ダイソン、吉成真由美[インタビュー・編]、NHK出版新書)は元NHKディレクターのサイエンス・ライター、吉成真由美氏…

メイドインアビス4,5巻感想――愛の物語

(本稿はメイドインアビス4,5巻のネタバレを含みます。) 『メイドインアビス』(つくしあきひと著、竹書房)は探窟家の子供リコと機械人形のレグがアビスという縦穴を底へ向かって降りていく物語だ。リコとレグは黎明卿ボンボルドの元から逃げてきたナナチを…

賭博師は祈らない感想―どうでもいいは強いが意味がない

『賭博師は祈らない』(周藤蓮著、電撃文庫)は第23回電撃小説大賞金賞受賞作だ。ライトノベルには珍しい歴史小説で、18世紀末イギリスの文化を丹念に調べて書いている。 主人公ラザルスは店に睨まれないため大きく勝たない主義の賭博師だが、ある日、ちょっ…

「言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか」感想――善性の笑い

ナイツは昔から大好きな漫才師だ。膨大な数のボケを畳み掛けてくるヤホー漫才を生み出しただけに留まらず、他の漫才師のスタイルのパロディをやったり、「俺ら東京さ行ぐだ」にひたすらツッコミ続けたり、英語で漫才をやったり、今も次々と新しいスタイルを…

個性を祝福する文学――十二人の死にたい子どもたち感想

『十二人の死にたい子どもたち』(冲方丁著、文藝春秋)は連休中に一気読みした。こんなにページを繰る手を止められない小説は久しぶりだ。 本作は十二人が室内で議論をしながら事件の謎を解いていくという『十二人の怒れる男』のオマージュ作品だ。『十二人…

娯楽と真実――王とサーカス感想

(本稿は『王とサーカス』の抽象的なネタバレを含みます。) 『王とサーカス』(米澤穂信著、東京創元社)は骨太なテーマを持った読み応えのある小説だ。ネパールの王族殺害事件に遭遇した記者、太刀洗万智がジャーナリストの存在意義を問われるのだが、それ…

2017小説年間ベスト10

東雲長閑が2017年に読んだ小説のベスト10です。2017年発売作品のベスト10ではありません。 万延元年のフットボール 大江健三郎 講談社文庫ノーベル文学賞受賞作家の代表作だけあって、非常に読み応えがある。感想を書く度に新しい発見があって、感想記事を三…

他者に向かって叫ぶべき本当の事――万延元年のフットボール感想

(本稿は『万延元年のフットボール』の抽象的ネタバレを含みます。) 『万延元年のフットボール』はノーベル賞作家大江健三郎氏の代表作だ。だが、新作と戦前の文豪の間のエアポケットに入ってしまって、最近ではほとんど話題になることがない。確かに難解な…

コンピューターにできること――ベストセラーコード感想

『ベストセラーコード 「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム』(ジョディ・アーチャー&マシュー・ジョッカーズ著、解説西内啓、川添節子訳、日経BP社)はアメリカのベストセラーをコンピューターを用いて分析した本だ。テーマ、プロット、文体、…

ライトノベルとお約束ギャグ

少し前に「アニメの寒い描写がきつい」という増田記事が話題になっていた。 anond.hatelabo.jp 私も筆者が挙げている「女子のツッコミの過剰な暴力、寒いギャグやノリ、不自然なエロハプニング、シリアス展開中の不自然なギャグ」みたいなお約束ギャグはいら…