東雲製作所

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きれいな右肩上がりチャートまとめ

 TOPIXと上海総合の10年チャートを示す。

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TOPIX

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上海総合


 このように上下動の激しいチャートの資産に投資するには、現在が割高か割安かを判断し、凸の部分を避け、凹の部分で買う必要がある。
 上手く売買すれば大きな利益を上げることができるが、タイミングを間違えると何年も含み損を抱えることになる。投資対象としては上級者向けだ。

 一方、きれいな右肩上がりチャートの資産なら、単にバイ&ホールドすれば良いので、初心者でも楽に儲けることができる。

 そこで、10年チャートがきれいな右肩上がりになっている投資対象についてまとめてみた。
 

1.投資指数
1)S&P500

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S&P500

S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス社がアメリカの代表的な500銘柄の株価を基に算出している、時価総額加重平均型株価指数
ウォーレン・バフェットが自分の死後、妻に「資金の90%をS&P500に投資せよ」と言ったことでも有名である。

10年で3倍近くになっている。

メジャーな指数だけあって、連動する商品は沢山ある。
投資信託ならeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)
日本ETFならSPDR S&P500 ETF(1557)
米国ETFならVOO
を買えばよい。


2)VTI(CRSP USトータルマーケット・インデックス)

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VTI


バンガード・トータル・ストック・マーケットETF。S&P500が米国の大・中型株の指標なのに対し、VTIは米国株式市場の投資可能銘柄のほぼ100%をカバーしている。
長期的には成長性が高い小型株を含んでいる分、VTIの方がリターンが高いが、大きな違いはない。

投資信託なら楽天全米株式・インデックスファンド
米国ETFならVTI
を買えば良い。


3)NASDAQ100

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NASDAQ100

米国の新興市場ナスダックに上場している企業のうち、金融銘柄を除く時価総額上位100銘柄の時価総額加重平均をとった指数。高成長なハイテク株のウェイトが大きいのが特徴である。

何と10年で4倍になっている。ただし、下げ相場では下落幅も大きい。

投資信託ならiFreeNEXT NASDAQ100インデックス
米国ETFならQQQ
が連動している。


4)インドSENSEX

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SENSEX

ボンベイ証券取引所に上場する銘柄のうち、30銘柄からなる指数。

新興国株式指数は凹凸が激しいものが多いが、例外的にインドSENSEXは比較的きれいな右肩上がりになっている。
インドは 人口増加国であり将来の成長性も申し分ない。ただし、ルピー円が変動するので、円建てだともっと荒くなる。
10年で2.5倍ぐらいになっている。

国内ではSENSEXに連動する商品はない。
香港市場の
iシェアーズ BSE SENSEX インディア・インデックスETF
が購入可能。

同じくインドの株価指数であるNifty50に連動するETFなら、
NEXT FUNDS インド株式指数・Nifty50連動型上場投信(1678)
がある。


5)ダイワ上場投信・TOPIX-17 情報通信・サービスその他(1643)

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1643

日本株のおすすめ業種として医薬品、小売、情報通信・サービス、素材・化学の四つを上げたが、中でも最もきれいに右肩上がりになっているのが情報通信・サービスである。
ダイワ上場投信・TOPIX-17は日中ほとんど取引がなく、何日も株価が動かないことも多いが、情報通信・サービスだけは普通の株なみに賑わっている。
日本のインデックス指標の中では比較的滑らかな右肩上がりだが、S&P500等に比べると凹凸が激しい。

 

2.個別株
1)アメリカン・ステイツ・ウォーター(AWR)

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AWR

カリフォルニアで水道事業を行っているガチガチのディフェンシブ株。60年以上連続増配を続けていることで有名。
ただしPER42.19とかなり割高。


2)マイクロソフト(MSFT)

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MFST

Windowsで有名な巨大IT企業。一時期スマホ対応が遅れて停滞していたが、クラウド事業にシフトして復活した。


3)ビザ(V)

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V

世界シェア1位のクレジットカード会社。


4)マスターカード(MA)

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MA

世界シェア2位のクレジットカード会社。
クレジットカードは一度シェアを取ってしまえば、後から逆転されにくく、安定して収益が入ってくるというおいしい商売である。


5)花王(4452)

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4452

日本株アメリカ株と比べ、長期安定成長している株が少ない。連続増配25年以上を配当貴族と言うが、日本株唯一の配当貴族銘柄が花王である。
メリット、アタックのような定番ブランドを多数持ち、アジア市場でも強い。


株価がきれいに右肩上がりになっている個別株はどれも、バフェットが言う所の有料橋ビジネス(追加投資を行わなくても安定した収益が得られる仕事)であることが分かる。
収益が安定しているため、株価が暴落しにくく、きれいな右肩上がりになっているのだ。

shinonomen.hatenablog.com

本心開示量が不適切な連中――かぐや様は告らせたい感想

 『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦』(赤坂アカ原作、畠山守監督)は相思相愛の白銀御行生徒会長と四宮かぐや副会長が、自分から告白すると立場が下になるからと相手から告白させようと画策しあうアニメだ。
 第一話を見て、下らないプライドのために幸せを遠ざけるなんてバカすぎると思って以降は観ていなかったのだが、放送終了後に続きを観てみたら引き込まれた。

 自分から告白するより、相手から告白して欲しいということ自体は一般的な感情だ。だが、その理由は、告白して拒絶されるのが怖いからだ。本作の白銀とかぐやの場合、相手が自分のことを好きなことは互いに気づいている。告白の失敗が怖いから告白しないでいるわけではない。
 告白しないでいる理由を本作は、相手に負けたくないというプライドによって説明している。当初は私も、下らないプライドのために幸せを棒に振るなんて愚かなことだと感じていた。だが、根本にあるのはプライドではなく臆病な心だ。
 告白するということは自分の心を相手にさらけ出す行為。拒絶されるかも知れないから怖いのではなく、自分の心をさらけ出すことそのものが怖いのだ。

 会長・副会長とは対照的に、二人がそれぞれ生徒会に引き込んだ藤原書記と石上会計は思ったことをそのまま口に出すキャラだ。心の内を見せない者同士では会長と副会長のようになかなか関係が深まらない。二人が率直な人を友人として必要としているというのは理解できる。
 面白いのは、書記と会計が仲が悪いことだ。本心を押し隠す者同士だと仲が進展しないが、思ったことを言う者同士もむき出しの言葉のぶつかり合いになってしまって必ずしも上手くいかない。

 秀知院学園生徒会は、本心開示量が不適切な連中の集まりだ。あまりに本心を隠しすぎると関係が深まらないが、さらけ出しすぎるとトラブルを起こしてしまう。
 コミュニケーション能力とは、適切な本心開示度を調整する能力と言えるのではないだろうか。

 

 

株高円高到来。外国株売買に為替を考慮すべきか。

 急速な株高、円高が進んでいる。
 米国の代表的な株価指数、S&P500は終値で史上最高値を更新した。(6月25日現在は2917.4$)。6月初頭に2744.4$をつけてから一ヶ月未満で7%も急上昇した。

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 一方で為替は急速に円高に振れている。5月末には1ドル109.5円だったのが、現在は107.4円。一ヶ月で2%上がっている。
 円高になるとドル資産の価値が減る。米国株は上がっているものの、円ベースで見ると相当上げが打ち消されてしまっている。
 株高なので少し売っておきたい所だが、こんな円高な時に売りたくないという気持ちが相まって悩ましい。

 米国株等の外国株を売買する際に為替を考慮すべきだろうか。三つの考えがある。


 一つ目は為替はおろか株価も考慮せず、ひたすら機械的ドルコスト平均法で積み立てるという考え方だ。これは株価も為替も予測不能でありかつ、現在値が高いか安いかも判断不能であるという考えに基づいている。
 これは10年以上の長期に渡って投資するのであれば正しい。長期的に見れば米国株は右肩上がりに成長するからだ。
 ただし、現在は10年以上続く景気拡大期の終盤で、景気後退が迫っているという意見が多い。景気後退に突入したら、景気後退が終わるまでは含み損を抱えても定期的に買い続ける覚悟が必要だ。


 二つ目は為替は無視して株価と経済指標のみに基づいて売買すべきという考え方だ。これは株価はいずれ本質的価値になるというファンダメンタリストの立場だ。
 ファンダメンタリストは株の本質的価値と株価を比較し、本質的価値より安ければ買い、高ければ売るべきだと考えている。株の本質的価値と為替は関係ないので、為替のことは考慮しない。
 ファンダメンタリストは様々な指標を元に投資戦略を考えているが、簡便にはPERやイールドスプレッドを見れば良い。
 6月21日現在、S&P500の予想PERは17.85。過去1年間の予想PERと比較して割高だ。今は買うべきではない。

 ただし、イールドスプレッドで見るとやや状況が異なる。S&P500の益利回りは5.60%(1/17.85×100)。10年米国債利回りは大きく下げて2.06%なので、イールドスプレッドは3.54%になる。これは過去5年の平均的な値だ。
 過去二回(昨年1月と10月)の暴落を見ると、米国株はS&P500のイールドスプレッドが2.36%を下回ると下落している。現在はPER的にはかなり割高だが、10年米国債利回りが下がったためイールドスプレッドで見るとまだ上昇余地は残されている。


 三つ目は為替と株価の両方を考慮して売買すべきという考え方だ。株価や為替はランダムに動いていて予測不能だが、現在値が高いか安いかはある程度判断可能だろうという考えに基づいている。
 この考え方に立つ場合、最も簡単なのが、SPDRS&P500(円ベース)のチャートを見て、過去より高めだったら売り、安めだったら買うという戦略だ。
 SPDRS&P500ETF(1557)の過去1年間のチャートを示す。

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 昨年末の暴落を除けば、概ね29500~32500の範囲内で上下している。現在をボックス相場だと考えるなら、31000円より高ければ割高、安ければ割安と言えそうだ。現在値は31350円なので、やや割高と言えるだろう。
 ただし、この方法だと、株価が右肩上がりの時に全く買えなくなってしまう。PER×為替の時系列データを作って比較する方法の方がより適切だ。


 私自身は二つ目か三つ目の戦略を取って、割高な時は買わない方が良いと考えている。
 もちろん、米中合意が急転直下で成立する等の理由で株価が右肩上がりで上昇、為替も円安に振れ、今のうちに買っておけば良かったのに、となる可能性はある。
 だが、景気後退が始まると、割高な時に買ってしまった株は何年も含み損になってしまう。いくらいずれプラスになるのだから大丈夫だと分かっていても、何年も大きな含み損を抱えるのは心理的負荷が大きいからだ。

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自家製梅酒の作り方

 自宅に梅の木があり、毎年梅酒を作っている。今年も作ったのでレシピを公開する。

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材料 (8L瓶用)
梅 3kg
氷砂糖 5kg
サントリーブランデー 果実の酒用V.O 1800ml 1本

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1)梅を収穫し、一個ずつ丁寧に汚れを落とす。

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2)広口瓶の5~6割ぐらいまで梅を入れる。

3)梅の上に氷砂糖を瓶の口ぎりぎりまで入れる。

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4)上からブランデー1本を注ぐ。(なお、空きパックを取っておくと、誰かにあげる時役に立つ。)

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5)数時間経つと氷砂糖が溶けてかさが減るので、さらに氷砂糖を追加する。

6)数ヶ月放置した後、一升瓶に移して出来上がり。

 

 これが母が試行錯誤の末練り上げた我が家の正式なレシピだが、出来上がった時に氷砂糖が大量に溶け残っているので、どう考えても氷砂糖を入れすぎだと思う。3袋ぐらいで十分なのではないか。
 最大のポイントは良いブランデーを使うことだ。良いブランデーさえ使えば元から美味いのだから、出来上がりも美味いに決っている。
 梅の成分が出てしぼんだ後の梅はおやつとして食べると美味い。ちょっとした和菓子のようだ。

 この梅酒の特徴は何と言っても甘いことだろう。氷砂糖が溶け残っている=飽和しているということだから、世界一甘いと言っても過言ではない。
 従って、そのままでは飲めず、水で4倍くらいに割って飲むのだが、それでも結構甘い。甘いのが好きでない人は、もっと普通のレシピを参考にした方が良いだろう。


参考:果実酒びんに書いてあった普通のレシピ(8L瓶用)
梅 2kg
氷砂糖 1kg
ホワイトリカー 3600ml

 

テクニカル分析は役立つこともあるが、今は役に立たない

 テクニカル分析は、経済学の世界では非常に評判が悪い。

ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理』(バートン・マルキール著、井手正介訳、日本経済新聞社)はテクニカル分析をボロクソに叩いている。

 マルキール氏は「ランダムなコイン投げの結果として描かれたチャートは、通常の株価チャートと驚くほど似ている。時にはサイクルさえ描いてみせる。」と指摘。
 「おそらく、テクニカル分析手法に対する最も有効な反論は、投資家による利益最大化の行動がもたらす論理的帰結であろう。(中略)もし一部の人々が、その銘柄の株価が明日四〇ドルになることを知っていたとすれば、株価は明日ではなく、今日ただ今四〇ドルになるだろう。(中略)株価は新たな情報に対して非常にすばやく反応するから、テクニカル分析を試みる努力は決して報われない。」と上手くいかない理由を分析し、にも関わらずテクニカル分析が廃れない理由を、
 「チャーティストが勧めるテクニカル戦略は必ずと言っていいほど、銘柄間の乗り換え取引を伴うものだ。こういった取引は証券会社に、彼らの血液とも言える手数料収入をもたらす。テクニカル・アナリストは、顧客がヨットを買う手助けにはならないが、取引を作り出す上では大いに助けとなる。おかげで、証券会社の社員はヨットを買うこともできるというわけだ。」と皮肉っている。

 私もかつてはテクニカル分析を信じている人は創造説を信じるような科学リテラシーのない人だけだと思っていた。だが、創造説が現実の政治に影響を及ぼしているように、テクニカル分析も現実の株価に影響を及ぼしている。

 『ウォール街のランダム・ウォーカー』も注意深く読むと、テクニカル分析が株価の予想に多少は役に立つこともあることをしぶしぶ認めている。
 行動ファイナンス学者の研究によると、
 「広く分散投資された株式ポートフォリオの週次と月次の所有期間リターンに関して、連続的な正の相関が見られた。つまり、ある週のリターンがプラスであれば、次の週のリターンもプラスになる可能性のほうが、そうでない可能性よりも大きい
 「テクニカル・アナリストたちが用いるチャート手法の中には、ある程度の予測力を持つものがありうる。
 のだと言う。
 マルキール氏はモメンタム(株価が同方向に動きやすい性質)戦略がバイ・アンド・ホールド戦略に勝てないことをもって、効率的市場仮説の正しさを主張しているが、それは話のすり替えだろう。効率的市場仮説が正しければバイ・アンド・ホールド戦略が最強になるが、バイ・アンド・ホールド戦略が最強だからと言って、効率的市場仮説が正しいとは限らないからだ。

 テクニカル分析は本書で言う所の「砂上の楼閣理論」に基いている。
 砂上の楼閣理論とは株価の動きのうち、合理的に説明のつく部分はせいぜい一〇%くらいで、残りの九〇%は心理的な要因によるものであるという考え方だ。
 普段の株価は短期的にはランダムに、長期的にはファンダメンタルに基いて動いている。
 しかし、バブルが発生したり、株価が暴落したりといった狂乱が生じている時は、心理的要因が強まっているため、テクニカル分析の有効性が高まる。

 2019年6月上旬現在、テクニカル分析は有効なのだろうか? 先月から今月にかけて株価は大きな下落し、反発した。そこそこの狂乱が生じていたのだから、テクニカル分析によってある程度株価を予想できたのだろうか。
 絶対に無理だ。

 なぜなら、現在はテクニカル分析の元となる心理的影響よりずっと大きな力が存在しているからだ。それはトランプ大統領だ。

 5月の株価急落は米中貿易協議が突如決裂しトランプ大統領が中国に追加関税を課すと発表したのが原因で、トランプ大統領が対メキシコ関税の発動を表明したことがダメ押しとなった。
 その後、FRBが利下げに柔軟な姿勢を示したことが好感されて反発し、トランプ大統領が対メキシコ関税の発動撤回を表明してさらに上昇した。

 3/4はトランプ大統領の発言によるものだ。そしてこれらはどれも事前に予想するのは不可能だった。
 テクニカル分析の元になっているモメンタムは、マルキール氏も指摘するように弱い力だ。他にずっと大きな力が働いているのだから、テクニカル分析は現状では何の役にも立たない。

 株価の予想は校庭に転がったボールの動きを予想するようなものだ。校庭が無人で、ボールが勢い良く転がっていれば、現在ボールがどちらに向かって転がっているかを元に今後の挙動を予想すること(=テクニカル分析)はある程度有効だ。
 だが、校庭でゴジラが暴れている時に、テクニカル分析をしても意味が無い。

 元々株の値動きを予想することは難しいが、現在は突然株価を撹乱する巨大なリスク要因(トランプ大統領)が存在しているため、なおさら予測不可能だ。値動きに惑わされず、安ければ買い、高ければ買わない(もしくは売る)ことが重要だ。

 

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単純化との向き合い方―ブラタモリの探求感想

 幕張メッセで毎年5月末に日本地球惑星科学連合大会という地学分野の研究発表や企業展示が一堂に会する大会が開かれている。その中でブラタモリの探求-「つたわる科学」のつくりかた』という一般公開プログラムを実施していた。『ブラタモリ』の製作者や出演者が番組の裏側を語るという内容だ。

confit.atlas.jp

 15分の発表8本+総合討論という構成で、番組がすごい労力をかけて作られているということが多面的に分かって面白かった。特に、小山真人氏と井上素子氏という二人の案内人の発表が、光と影の両面を伝えていて印象深かった。

 『地球科学者がブラタモリを案内して考えたこと』は富士山の回で案内人をされた小山真人氏による発表で、テレビの科学番組のいい加減さをガンガン批判されていて痛快だった。
 小山氏によると、NHKでも専門家が直しに関われないため、全く間違ったCGを作るような番組もある。ブラタモリは何度も修正を行っているため他の番組よりはずっと正確だが、それでも番組側からの単純化圧力があり、圧力に屈したと思しき例が散見されるのだと言う。
 小山氏が例に上げていた内の一つがパリの石灰岩だ。番組ではパリの石灰岩が日本の石灰岩より柔らかいことを寿司と餅に例え、日本の石灰岩はプレート境界で地中深くまで沈み込み高い圧力が加わったため餅のように固くなったのだと説明していた。
 だが、小山氏によると、日本の石灰岩の方が古いから固いという説明の方がより適切なのだと言う。

 一方、長瀞秩父の案内人、井上素子氏のブラタモリ番組政策に学ぶ博物館のアウトリーチ活動の在り方』は正確さよりも大切なことがあるという観点から発表されていた。
 井上氏はディレクターから「案内人は黒衣に徹して下さい。案内人の説明が長いと草なぎ君が代わりに説明します。タモリさんがしゃべる尺が長いと成功です。」ということを言われたそうだ。
 タモリさんの説明には不正確な部分もあるのだが、知的に楽しむ姿を見せることで多くの人に地学の楽しさを伝えることの方が重要なのではないかという指摘をされていて、そういう見方もあるのかと感心した。

 確かに、パリの石灰岩が柔らかい理由を一般の視聴者が正確に知っている必要はあるか、不正確だとどんな不都合があるのか、と問われると答えに窮する。高い圧力が加わったから固いというのも嘘ではないので、多少不正確でも、地学に興味を持つ人を増やすことの方が重要だという指摘には一理ある。
 
 だが、単純化圧力は地学だけの問題ではない。今やあらゆる所に存在している。
 トランプ大統領は、貿易赤字は悪で、米国は中国やメキシコ、日本などに搾取されていると訴えている。確かに安い製品によってシェアを奪われた米国内の製造業者にとっては悪だろう。
 だが、米国の消費者にとってはそれだけ暮らしが豊かになっているのだから、良いことである。貿易赤字=悪のような単純な問題ではないのだ。
 だが、単純化が主張を広めるのに有効なことは、トランプ大統領や世界中で出現しているミニトランプを見れば明らかだ。

 我々は単純化とどう向き合っていけば良いのだろうか。
 情報の送り手としては、正確性に固執せず、ある程度の単純化は受け入れるべきだろう。だが、その場合でも嘘や間違いは避けるべきだ。倫理的に問題であるだけでなく、嘘がバレた時に信頼性を損ねてしまうからだ。
 また、単純化した情報によって興味を覚えた人が、より複雑な情報へアクセスできるよう整備しておく必要がある。そういう意味で地質学は全然駄目だ。最新の知見を取り込んだ地域地質の本やサイトが整備されておらず、いきなり論文を読まねばならない。

 一方、情報の受け手としては 単純化に抗う必要がある。政治のような問題では反対派が悪で自分たちが善みたいに単純化した方が気持ち良いが、実際はそう単純ではない。
 単純化してしまうと、党派性に囚われて判断を間違えかねない。我々は世界が複雑ですっきりとは割り切れないことに耐えねばならないのだ。

www4.nhk.or.jp

 

金利2%!ドル建てMMFの定期買い付けは有効か

 日本円ベースで運用している投資家は適当な債権的運用先が無くて困っている。
 債権的運用先とは、低金利だが値動きが少なく、ポートフォリオに組み込むことで資産全体のリスクを軽減できる商品のことだ。
 元本保証の定期預金や日本国債金利が0.1%程度であり、タンス預金と大して変わらない。
 比較的有望なのがJリートだが、みんな債権的運用先を求めているので、ずっと高めになっている。

shinonomen.hatenablog.com

 ドル建ての債権的商品にMMFがある。格付けの高い短期債券のみで構成された投資信託の一種で、安全第一で設計されているためよほどのことがない限り元本割れしない。株や通常の債券に比べると金利は低いが、それでも2%程度ある。さらに素晴らしいのが投資資金を一時的に置いておくための商品なので買い付け手数料がかからず、いつでも解約できるということだ。
 現在、米国10年国債金利は2.227%、ブラックロック・スーパー・マネー・マーケット・ファンドは2.028%なのでそれほど変わらない。それならば、買い付け手数料がかからず元本割れリスクが低いMMFで運用した方が良さそうだ。

投信・外貨建MMF|SBI証券

 ドル建てMMF最大の難点は為替の影響を受けることだ。せっかく2%の金利がついても、2%以上ドル安に振れたら、円ベースの価値はマイナスになってしまう。
 だが、株は買う時期を分散することでリスクを低減することができる。MMFも時間分散して定期買い付けをすることで、為替の影響を緩和できるのではないか。

 そこで過去一年間週に一回MMFを定期買い付けした場合の収支を計算してみた。
 2018年5月27日から2019年5月26日までの1年間、毎週1000円ずつドル転し、ブラックロックMMFに積み立てると、下記のようになる。
積み立て金額(円ベース)52,000円
積み立て金額(ドルベース)467.62$
金利(ドルベース) 4.77$
年利回り(ドルベース) 1.02%
年利回り(円ベース) -0.45%

 金利は2%程度あるものの、1年間に分散して買い付けると、平均保有期間は半年になってしまうため、利回りは1%程度に低下する。
 さらにひどいのは円ベースの利回りで、0.45%のマイナスとなった。過去1年間の平均より、現在の為替がドル安になっているためだ。

 今回の試算では手数料を考慮していないが、実際はドル転の際に1ドルにつき4銭の手数料がかかるし(SBI銀行を利用した場合)、為替も若干不利になる。
 過去1年間で週次為替レートは108.48円~113.78円に変動している。変動幅は4.89%もある。2%程度の金利では為替リスクに見合わない。

 さらに悪いことに、今後米国が利下げを行うと、為替は円高に振れ、ドル試算は目減りすると予想されている。円高になった機を捉えてドル転するのならともかく、MMFを定期買い付けするのは良くない。日本円で銀行に置いておいた方がましである。