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米国株は割高か

 米国株が急激に値を戻している。昨年末にこれまでの下落のダメ押しのように6.63%暴落したS&P500は1月に入ってから順調に値を上げ、1月18日には12月13日の暴落前の水準まで回復した。
 株にはモメンタムという、上がっているものは上がり、下がっているものは下がり続ける傾向がある。このまま順調に上がり続けるなら買って一儲けしたい所だ。だが、著名な投資家のジム・ロジャーズ氏はインタビューで「アメリカ株は、いま最高値にあるから買わない。」と語っていた。

forbesjapan.com

 現在の米国株は割高なのだろうか。イールドスプレッドとバフェット指数で結論が大きく異なる。


1.イールドスプレッド
 イールドスプレッドは株の益利回り(PERの逆数)と10年国債利回りの差を表す。株がいくら割安でも、安全な米国債で株と同程度の利回りが得られるなら、みな米国債を買うので株は下落する。株価が上がるためには、単に株が割安であるだけでなく、国債と比べて十分割安でなくてはならない。

 1月18日現在、S&P500の益利回りは6.38%、10年米国債利回りは2.78%なのでイールドスプレッドは3.6%だ。

finance-gfp.com


 米国株のイールドスプレッドはここ5年は2.5~4.0%で推移している。グラフから読み取った平均値は3.5%なので、3.6%は概ね適正値と言える。

 暴落の底である昨年12月28日のS&P500益利回りは6.56%、10年米国債利回りは2.72%なのでイールドスプレッドは3.84%。割安だったと言えるだろう。
 

2.バフェット指数
 バフェット指数は当該国のGDPと株式市場の時価総額の比だ。

バフェット指数=株式市場の時価総額÷GDP×100

 その国のGDP成長率と時価総額の成長率は長期的に見ると同程度になるので、株式の割安さの指標となる。100以上だと株が割高、100以下だと割安となる。

nikkeiyosoku.com


 米国株のバフェット指数は2013年3月に100を突破し2018年1月に150.94まで上昇。それ以降高止まりしている。
 1月19日のバフェット指数は130.99。暴落した12月28日ですら116.91であり、かなり割高だ。

 なぜ12月28日の米国株はイールドスプレッドで見ると割安なのに、バフェット指数で見ると割高なのだろうか。


3.自社株買い 

http://www.daiwa.jp/products/fund/include/2/2711/l2711.pdf

 上記のPDFに米国企業の自社株買いのデータがある。グラフからざっくり読み取ると、米国企業は2013年3月から2017年6月の間に約2.4兆ドルの自社株買いを実施している。同程度の自社株買いがなされたとすると、2018年12月までだと3.2兆ドルだ。
 2018年12月の米国株時価総額は21.8兆ドルなので、2013年3月以降の自社株買いは、米国株の株価を14.7%押し上げる効果があった。
 自社株買いをしても時価総額は変わらないが、株数が減って一株当たりの利益は増えるので、益利回りは上昇する。
 もし米国企業が1月18日に2013年3月以降に行った自社株買いを打ち消すだけの増資を行うと、益利回りは約14.7%割高だということになり、バフェット指数の30.99%割高だという評価の半分程度は説明できる。

 イールドスプレッドとバフェット指数の評価が乖離している理由はある程度分かったが、どちらの評価が正しいかは一概に言えない。
 だが、益利回りやイールドスプレッドに基いて売買している投資家は多いが、時価総額に基いて売買している投資家などほとんどいない。株価形成上、イールドスプレッドの方が力を持つのではないだろうか。


4,まとめ
1)2019年1月18日現在の米国株はイールドスプレッド的には適正だが、バフェット指数的にはかなり割高である。
2)昨年最安値を記録した2018年12月28日の米国株はイールドスプレッド的には割安だが、バフェット指数的には割高。
3)イールドスプレッドとバフェット指数で評価が乖離しているのは自社株買いの影響が大きい。


 昨年12月の暴落は米国経済が景気後退するかもしれないという不安から引き起こされたもので、実際にはまだ景気後退していない。
 本当の景気後退が来たら昨年末以上に下落することが予想される。暴落時に素早く売り抜ける自信がない人は、下落に備え、今のうちに現金比率を上げておくのが良いだろう。
 とは言え、数年間は景気後退が起きない可能性もある。しばらく景気後退が来ない場合にも備えて、ある程度の株は保持しておくべきではないだろうか。

 

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前澤社長が金を浪費するのは素晴らしい

 ZOZOTOWNの前澤社長がツイッターで100人に100万円をあげて批判されている。主な批判は下品だ、ツイートを金で買っている、金による言論統制だ、そんな金があるのなら非正規雇用従業員の給料を上げるべきだ、といったものだ。
 このうち、非正規雇用従業員の給料を上げるべきという主張には同意するが、それは政府の仕事だろう。社長の善意に頼って給料を上げようとすると、悪どい社長ほど得をすることになってしまうからだ。

 前澤社長は以前から叩かれがちだ。剛力彩芽氏とロシアW杯を観戦しに行った時は、良くわからない理由で剛力氏が叩かれていた。
 この背景には日本人の清貧の思想がある。
 日本人は金を卑しいものだと考え、金を浪費する人より、慎ましやかな生活を送る人の方が好ましいと考える傾向がある。
 しかし金持ちが目刺しを食って木刀を振っているよりは、ツイッターで金をバラ巻いたり月旅行に行ったりした方が経済が活性化し、格差も縮小する。
 倹約家の金持ちより浪費家の金持ちの方が社会にとって有益なのは明らかだ。

 ほとんどの金持ちは倹約家である。
 ウォーレン・バフェット氏はビル・ゲイツ氏と二人で香港に遊びに行き、マクドナルドに入った。そこでバフェット氏は「ここは私のおごりだ」と言ってマクドナルドのクーポンを取り出したのだと言う。
 私もケチなのでこのエピソードは大好きなのだが、世界有数の金持ちがこんなに倹約していたのでは、格差が拡大する一方だ。

 ケチなのはバフェット氏だけではない。「となりの億万長者 成功を生む7つの法則」(トマス・J・スタンリー&ウィリアム・D・ダンコ 斎藤聖美訳 早川書房)は全米の億万長者について調査した本だ。
 これによると、億万長者の多くは高級外車に乗ったり高価な腕時計や宝石を身にまとったりせず、ケチケチ生活している。
 医者や弁護士といった高収入の職業は、信用のために身なりや交際等に金を使わねばならないので億万長者は少ない。むしろ、地味な仕事を営む自営業者が多いのだと言う。
 年収が高くても、年収分だけ使ってしまっては金持ちにはなれない。金持ちがケチというより、ケチな人が金持ちになるのだ。

 前澤社長は浪費家なのに金持ちという非常に珍しい存在だ。
 ただでさえ浪費家の金持ちは少ないのに、前澤氏がバッシングされたらどうなるか。前澤氏のように浪費してやろうかと思っていた金持ちは、ああ、浪費なんかしたらバッシングされてしまう。やはりケチケチと金を貯めこんでおくに限る、と考えを変え、金を使わなくなるだろう。その結果、格差はますます拡大し、経済は停滞、貧しい人はますます貧しくなるのである。

 格差を縮小したいのなら、清貧の思想を脱し、前澤社長のような行為を後押しすべきではないだろうか。

 

となりの億万長者 〔新版〕 ― 成功を生む7つの法則

となりの億万長者 〔新版〕 ― 成功を生む7つの法則

 

 

主要米国株のバリュエーションと理論株価

 ダウ平均30銘柄、及び時価総額が大きい5銘柄についてPER、PBR、ROE等のバリュエーションを調査した。
 調査を行ったのは2018年12月24日。情報元はモーニングスター米国株式情報である。

www.morningstar.co.jp


 12月24日は米国株が大暴落し、最安値をつけた日だ。
 ダウ平均は12月24日が21792.20、1月13日が23995.95なので、10.11%値上がりしている。現在はこの表より1割程度割高になっている。

 

 

 

 

 

 

 

 (サイドバーと表が重ならないための改行)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ティッカー 12/24終値 時価総額(億ドル) 業種 PER EPS PBR BPS PSR 予想配当利回り 3年営業利益成長率 営業利益率 ROE ROA
アップル AAPL 146.83 6968 コンピューター・ハードウェア 12.3 11.94 6.5 22.59 2.8 1.99 -0.16 26.69 49.36 16.07
アメリカン・ エキスプレス AXP 89.5 765 クレジットカード 21.1 4.24 3.6 24.86 3 1.73 -7.82 - 13.6 1.55
ボーイング BA 294.16 1670 宇宙・防衛 17.3 17.00 -   1.8 2.79 9.25 10.76 1397.78 8.98
キャタピラー CAT 116.95 690 農機・建機 18.7 6.25 4.4 26.58 1.3 2.94 20.43 9.69 5.62 0.99
シスコシステムズ CSCO 40.28 1811 通信設備 129.9 0.31 4.1 9.82 3.8 3.28 4.91 25.68 0.2 0.09
シェブロン CVX 100.99 1930 石油・ガス(総合) 13.6 7.43 1.3 77.68 1.2 4.44 114.37 1.84 6.26 3.58
ウォルト・ディズニー DIS 100.35 1494 放送・メディア 12 8.36 3.1 32.37 2.5 1.75 3.91 24.96 27.97 12.96
ダウ・デュポン DWDP 49.09 1126 化学 132.7 0.37 1.1 44.63 1.3 3.1 6.76 7.88 2.29 1.07
ゴールドマン・サックス GS 156.35 582 証券・保険代理店 11.1 14.09 0.8 195.44 1.9 2.05 1.59 - 5.05 0.41
ホームデポ HD 158.14 1786 小売(アパレル・専門店) 17.3 9.14 135.3 1.17 1.7 2.61 10.35 14.55 298.25 19.73
アイビーエム IBM 107.57 978 アプリケーション・ソフトウェア 17.2 6.25 4.9 21.95 1.2 5.84 -9.56 14.91 32.1 4.74
インテル INTC 43.59 1989 半導体 13.5 3.23 2.8 15.57 3 2.75 15.62 29.19 14.2 8.12
ジョンソン・エンド・ジョンソン JNJ 122.84 3295 製薬 208.2 0.59 5.1 24.09 4.1 2.93 0.38 24.48 1.99 0.87
ジェイピー・モルガン・チェース JPM 92.14 3064 銀行 11.4 8.08 1.3 70.88 3 3.47 4.74 - 9.86 0.9
コカコーラ KO 45.96 1956 ソフトドリンク 63 0.73 10.7 4.30 6.1 3.39 5.76 26.62 6.22 1.42
マクドナルド MCD 170.28 1313 飲食 25.8 6.60     6.4 2.71 5.23 36.76 - 16.02
スリーエム MMM 178.62 1040 工業製品 23.9 7.47 10.1 17.69 3.3 3.05 2.82 22.85 44.44 13.71
メルク MRK 71.15 1850 製薬 56.9 1.25 5.7 12.48 4.6 3.09 6.62 18.22 6.43 2.61
マイクロソフト MSFT 94.13 7226 アプリケーション・ソフトウェア 38.7 2.43 8.4 11.21 6.4 1.83 11.4 31.77 19.45 6.51
ナイキ NKE 68.1 1082 アパレル・家具 53.6 1.27 12 5.68 3 1.29 2 12.21 17.4 8.44
ファイザー PFE 40.55 2344 製薬 10.3 3.94 3.3 12.29 4.6 3.55 3.21 26.85 32.58 12.41
プロクター・アンド・ギャンブル PG 87.36 2176 食品・日用雑貨 22.8 3.83 4.2 20.80 3.4 3.28 -0.81 20.52 17.98 7.95
トラベラーズ・カンパニーズ TRV 112.63 298 損害保険 12.6 8.94 1.3 86.64 1 2.73 3.62 - 8.69 2
ユナイテッドヘルス・グループ UNH 232.94 2241 医療保障 18.3 12.73 4.5 51.76 1 1.55 14.13 7.56 24.54 8.06
ユナイテッド・テクノロジー UTX 102.06 881 宇宙・防衛 16.4 6.22 2.7 37.80 1.3 2.88 0.89 14.49 15.92 4.88
ビザ V 121.73 2765 クレジットカード 27.5 4.43 9.7 12.55 13.8 0.82 12.64 62.86 35.65 14.49
ベライゾン・コミュニケーション VZ 53.05 2192 情報サービス 6.8 7.80 4 13.26 1.7 4.54 10.87 23.16 91.74 12.01
ウォルグリーン WBA 65.26 616 小売(生活必需品) 12 5.44 2.4 27.19 0.5 2.7 7.3 4.73 18.79 7.49
ウォルマート WMT 85.82 2493 小売(生活必需品) 49.3 1.74 3.5 24.52 0.5 2.42 -7.13 4.08 12.67 4.89
エクソン・モービル XOM 65.51 2774 石油・ガス(総合) 12 5.46 1.5 43.67 1 5.01 2.32 5.09 11.1 5.81
ダウ平均(30銘柄合計)   3213.93 61395   18.1 177.57 2.9 1108.25            
アマゾン・ドットコム AMZN 1343.96 6572 小売(アパレル・専門店) 75.2 17.87 16.8 80.00 3 - 84.48 2.31 12.91 2.83
アルファベット クラスC GOOG 976.22 6819 オンラインメディア 36.6 26.67 4 244.06 5.3 - 18.85 26.05 8.69 6.94
アリババ・グループ BABA 131.89 3392 小売(アパレル・専門店) 39.6 3.33 5.6 23.55 7.7 - 34.02 28.12 19.85 10.46
フェイスブック FB 124.06 3565 オンラインメディア 18.7 6.63 4.4 28.20 7 - 72.07 49.7 23.84 21.3
バークシャー・ハサウェイ BRK.B 187.76 4631 総合保険 7.6 24.71 1.2 156.47 1.8 - 7.32 - 14.26 6.79
 


 このデータを元に、主要米国株の理論株価を計算した。
(以下、色々書いてあるが、結論だけ知りたい方は表3と表4だけ見て頂ければ十分だ。)

 理論株価は原理上下記の式で表せる。
 理論株価BPS+EPS+EPS×(1+利益成長率)/(1+割引率)+EPS×(1+利益成長率)^2/(1+割引率)^2+EPS×(1+利益成長率)^3/(1+割引率)^3…)……(0)
 この式を変形すると
 理論株価BPS+EPS/(割引率-利益成長率)……(1)
 となるらしい。

 将来、現在の利益成長率が維持されるという仮定は疑わしいため省いてしまうという考え方もある。
 理論株価BPS+EPS/割引率……(2)

 (1)からBPSを除いて、
 理論株価=EPS/(割引率-利益成長率)……(3)
 という説もある。会社が倒産しない限り株主が受け取るのは会社の利益だけであって、資産は関係ないという考え方だ。

 (3)からも(2)同様に利益成長率を省くと下記の式となる。
 理論株価=EPS/割引率……(4)
 
 (1),(3)は利益成長率>割引率の時に理論株価が負の値になるが、実際の理論株価は∞である。割引率より利益成長率の方が高いと利益が収束しないからだ。
 しかし理論株価=∞では困るので、(1),(3)それぞれについて、(0)の式を用いて20年目までの利益を足した値を求め、(5),(6)とした。
 

 一年後の一万円は今日の一万円より価値が低い。国債を買えば一年後には増えるし、すぐ貰った方が嬉しいからだ。一年間で価値が低下する割合を割引率と言い、

 割引率=長期金利+リスクプレミアム

 である。(長期金利国債で増える分、リスク・プレミアムが待たされ賃)
 米国の10年国債利回りは約2.8%、米国株式のリスクプレミアムは4%前後なので、割引率は7%とした。


 シェブロンは3年利益成長率が114.37%だが、5年では大幅減益となっている。実態との乖離が著しく、そのままの値を用いるとダウ平均を異常に高めてしまうため0%に修正した。

 表1に(1)~(6)の理論株価を示す。表2には理論株価と12/24日株価の比を示した。比の値が大きい程割安である。

  12/24終値 (1) (2) (3) (4) (5) (6)
アップル 146.83 189.31 193.12 166.72 170.53 156.34 133.75
アメリカン・ エキスプレス 89.50 53.48 85.46 28.62 60.60 53.93 29.07
ボーイング 294.16 242.91 242.91 417.40 417.40
キャタピラー 116.95 115.92 89.34 507.01 480.43
シスコシステムズ 40.28 24.66 14.25 14.84 4.43 15.00 5.18
シェブロン 100.99 183.77 183.77 106.08 106.08 161.86 84.18
ウォルト・ディズニー 100.35 303.00 151.84 270.63 119.46 160.80 128.42
ダウ・デュポン 49.09 198.77 49.91 154.14 5.28 51.87 7.24
ゴールドマン・サックス 156.35 455.80 396.66 260.36 201.22 375.33 179.89
ホームデポ 158.14 131.76 130.59 250.09 248.92
アイビーエム 107.57 59.72 111.30 37.77 89.34 60.96 39.01
インテル 43.59 61.69 46.13 164.25 148.68
ジョンソン・エンド・ジョンソン 122.84 33.00 32.51 8.91 8.43 30.96 6.88
ジェイピー・モルガン・チェース 92.14 428.51 186.34 357.63 115.46 203.86 132.98
コカコーラ 45.96 63.13 14.72 58.83 10.42 17.39 13.09
マクドナルド 170.28 372.88 94.29 372.88 94.29 113.18 113.18
スリーエム 178.62 196.48 124.45 178.80 106.77 122.77 105.09
メルク 71.15 341.55 30.35 329.06 17.86 36.67 24.18
マイクロソフト 94.13 45.95 34.75 84.48 73.28
ナイキ 68.10 31.09 23.83 25.41 18.15 22.42 16.75
ファイザー 40.55 116.16 68.53 103.88 56.24 69.40 57.11
プロクター・アンド・ギャンブル 87.36 69.86 75.54 49.06 54.74 61.77 40.97
トラベラーズ・カンパニーズ 112.63 351.10 214.34 264.46 127.70 220.70 134.06
ユナイテッドヘルス・グループ 232.94 233.61 181.84 554.82 503.05
ユナイテッド・テクノロジー 102.06 139.65 126.70 101.85 88.90 113.16 75.36
ビザ 121.73 75.79 63.24 163.18 150.63
ベライゾン・コミュニケーション 53.05 124.71 111.45 236.55 223.29
ウォルグリーン 65.26 104.88 77.69 138.90 111.71
ウォルマート 85.82 36.84 49.39 12.32 24.87 36.93 12.41
エクソン・モービル 65.51 160.32 121.66 116.65 77.99 117.46 73.79
ダウ平均(30銘柄合計) 3213.93 3486.16 2536.70 4719.42 3769.96
アマゾン・ドットコム 1343.96 335.31 255.31 1329508.09 1329428.09
アルファベット クラスC 976.22 625.09 381.04 1971.28 1727.23
アリババ・グループ 131.89 71.13 47.58 1201.42 1177.87
フェイスブック 124.06 122.97 94.77 145972.89 145944.69
バークシャー・ハサウェイ 187.76 509.40 352.93 664.87 508.40

表1 理論株価

 

  (1) (2) (3) (4) (5) (6)
アップル 128.93 131.53 113.55 116.14 106.47 91.09
アメリカン・ エキスプレス 59.76 95.48 31.98 67.70 60.26 32.48
ボーイング 82.58 82.58 141.89 141.89
キャタピラー 99.12 76.39 433.52 410.80
シスコシステムズ 61.22 35.39 36.83 11.00 37.24 12.85
ウォルト・ディズニー 301.95 151.31 269.69 119.05 160.23 127.98
ダウ・デュポン 404.90 101.67 313.99 10.77 105.66 14.75
ゴールドマン・サックス 291.53 253.70 166.53 128.70 240.06 115.06
ホームデポ 83.32 82.58 158.14 157.40
アイビーエム 55.52 103.46 35.11 83.06 56.67 36.26
インテル 141.53 105.82 376.80 341.09
ジョンソン・エンド・ジョンソン 26.86 26.47 7.26 6.86 25.21 5.60
ジェイピー・モルガン・チェース 465.06 202.24 388.14 125.31 221.25 144.32
コカコーラ 137.35 32.02 128.01 22.68 37.83 28.48
マクドナルド 218.98 55.37 218.98 55.37 66.47 66.47
スリーエム 110.00 69.67 100.10 59.77 68.73 58.83
メルク 480.04 42.65 462.49 25.11 51.53 33.99
マイクロソフト 48.82 36.91 89.75 77.85
ナイキ 45.65 34.99 37.31 26.65 32.93 24.59
ファイザー 286.47 169.00 256.17 138.70 171.15 140.85
プロクター・アンド・ギャンブル 79.97 86.47 56.16 62.66 70.70 46.89
トラベラーズ・カンパニーズ 311.73 190.30 234.81 113.38 195.95 119.03
ユナイテッドヘルス・グループ 100.29 78.06 238.18 215.96
ユナイテッド・テクノロジー 136.83 124.15 99.80 87.11 110.87 73.84
ビザ 62.26 51.95 134.05 123.74
ベライゾン・コミュニケーション 235.08 210.08 445.91 420.91
ウォルグリーン 160.71 119.05 212.85 171.18
ウォルマート 42.93 57.55 14.36 28.98 43.03 14.46
エクソン・モービル 244.73 185.71 178.06 119.05 179.30 112.64
シェブロン 181.97 181.97 105.04 105.04 160.27 83.35
ダウ平均(30銘柄合計) 108.47 78.93 146.84 117.30
アマゾン・ドットコム 24.95 19.00 98924.68 98918.72
アルファベット クラスC 64.03 39.03 201.93 176.93
アリババ・グループ 53.93 36.08 910.92 893.07
フェイスブック 99.12 76.39 117663.14 117640.41
バークシャー・ハサウェイ 271.30 187.97 354.10 270.77

表2 理論株価と12/24日株価の比(大きいほど割安)

 

バークシャー・ハサウェイ 271.30
ゴールドマン・サックス 253.70
ベライゾン・コミュニケーション 235.08
ジェイピー・モルガン・チェース 202.24
トラベラーズ・カンパニーズ 190.30
エクソン・モービル 185.71
シェブロン 181.97
ファイザー 169.00
ウォルグリーン 160.71
ウォルト・ディズニー 151.31
インテル 141.53
アップル 131.53
ユナイテッド・テクノロジー 124.15
ダウ平均(30銘柄合計) 108.47
アイビーエム 103.46
ダウ・デュポン 101.67
ユナイテッドヘルス・グループ 100.29
キャタピラー 99.12
フェイスブック 99.12
アメリカン・ エキスプレス 95.48
プロクター・アンド・ギャンブル 86.47
ホームデポ 83.32
ボーイング 82.58
スリーエム 69.67
アルファベット クラスC 64.03
ビザ 62.26
ウォルマート 57.55
マクドナルド 55.37
アリババ・グループ 53.93
マイクロソフト 48.82
メルク 42.65
シスコシステムズ 35.39
ナイキ 34.99
コカコーラ 32.02
ジョンソン・エンド・ジョンソン 26.47
アマゾン・ドットコム 24.95

表3 理論株価(BPS+EPS/割引率)と12/24日株価の比(大きいほど割安)

 表3は表2から(2)を抜き出して大きい順に並べたものだ。
 バークシャー・ハサウェイゴールドマン・サックス、ジェイピー・モルガン・チェース、トラベラーズ・カンパニーズとトップ5のうち、4銘柄を金融関連株が占めた。金融関連株は景気後退時にリスクが高まるため、割安になっている。
 バークシャー・ハサウェイは保険会社だが、実質的にはウォーレン・バフェット氏のアクティブファンドのような株だ。金融株や暴落したアップルを多く保有しているため値下がりしているが、バフェット氏の力量を信じるならお買い得と言えよう。
 3位のベライゾン・コミュニケーションは携帯電話会社。大きな成長を見込めない高配当株で割安な状態が続いている。
 6,7位は油価が低迷している石油株が入った。

 一方、最下位はアマゾンとなった。(2)は利益成長がないという仮定の式なので、高い利益成長率が株価に織り込まれているアマゾンには不利な条件だ。次いで、ジョンソン・エンド・ジョンソン、コカコーラ、ナイキと優良ディフェンシブ銘柄が続いている。

 ダウ平均は12月24日時点では割安だった。現在の株価は(2)の理論株価に近いため、市場は今後ほとんど利益成長が見込めないというかなり悲観的な想定をしていると言える。

 

フェイスブック 117640.41
アマゾン・ドットコム 98918.72
アリババ・グループ 893.07
ベライゾン・コミュニケーション 420.91
キャタピラー 410.80
インテル 341.09
バークシャー・ハサウェイ 270.77
ユナイテッドヘルス・グループ 215.96
アルファベット クラスC 176.93
ウォルグリーン 171.18
ホームデポ 157.40
ジェイピー・モルガン・チェース 144.32
ボーイング 141.89
ファイザー 140.85
ウォルト・ディズニー 127.98
ビザ 123.74
トラベラーズ・カンパニーズ 119.03
ダウ平均(30銘柄合計) 117.30
ゴールドマン・サックス 115.06
エクソン・モービル 112.64
アップル 91.09
シェブロン 83.35
マイクロソフト 77.85
ユナイテッド・テクノロジー 73.84
マクドナルド 66.47
スリーエム 58.83
プロクター・アンド・ギャンブル 46.89
アイビーエム 36.26
メルク 33.99
アメリカン・ エキスプレス 32.48
コカコーラ 28.48
ナイキ 24.59
ダウ・デュポン 14.75
ウォルマート 14.46
シスコシステムズ 12.85
ジョンソン・エンド・ジョンソン 5.60

表4 理論株価(20年目までの利益/割引率)と12/24日株価の比(大きいほど割安)


 表4は(6)を抜き出したものだ。
 フェイスブック、アマゾン、アリババと売上成長率が高いハイテク株がトップ3を占めた。フェイスブックやアマゾンは、もし過去3年の成長率を維持できれば、桁違いの利益を得られることが分かる。反面、成長率の鈍化によって株価が急落するリスクもある。
 キャタピラーは中国シェアが高いため、インテル半導体が景気敏感セクターであるため割安になっている。
 こちらの表でも下位にはディフェンシブ株が目立つ。シスコシステムズはIT株だが、連続増配している優良株で性質的にはディフェンシブだ。


 ディフェンシブ株は景気後退時でも業績が安定しているため、人気が高まっている。だが、理論株価上はかなり割高だ。

 下落リスクが高まっている環境では成長株を売ってディフェンシブ株に乗り換えることが推奨される。だが、いまさら割高なディフェンシブ株を買うぐらいなら、単に現金比率を上げた方が良いのではないだろうか。

未来は分からないが、現在はある程度分かる――投資で一番大切な20の教え感想

『投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識』(ハワード・マークス著、貫井佳子訳、 日本経済新聞出版社)はウォーレン・バフェットが絶賛し、バークシャー・ハザウェイ株主総会で配布した投資本だ。
 私は最近読んだのだが、なぜ投資を始める前か、せめて9月までに読まなかったのかと後悔した。本書を読んでいれば、昨年10月以降の暴落をかなり回避することができただろう。

 

 本書で最も重要な教えは「サイクルを意識せよ」だ。
 投資の成否の大部分は何を買うかではなく、長期サイクルのいつ買うかで決まる。2016年に株を買えばほぼ何を買っても大儲けだが、2018年1月に買って儲けるのは難しい。だが、投資本の大半は何を買うかについて書いており、いつ買うかに関しては匙を投げているか、チャート分析のような短期のトレンドについてしか書いてない。大きなサイクルでいつ売買すべきか説いている本書のような本は貴重だ。


 市場心理は楽観と悲観の間で振り子のように揺れ動く。だが、振り子がどのタイミングで反転するかを予測するのは難しい。本書はそれに対して三通りの対応を挙げる。

1未来の予測にいっそう力を注ぐ。
2未来は知りえないことを受け入れ、サイクルの存在を無視する。
3自分が今サイクルのどの位置に立っているのか、そして、どのような行動をおこすべきなのかをつきとめようとする。

 1は筆者が「知ってる派」と呼ぶ投資行動だ。未来を予測し、それに基づいて投資を行えば、予測が当たった時大きなリターンを得ることができる。だが、予測を一貫して当て続けている投資家は存在せず、予測が外れた場合大きなダメージを受ける。
 2は効率的市場仮説に基づいた、「バイ・アンド・ホールド」と呼ばれる投資行動だ。市場平均と同程度のリターンで満足するのなら、合理的な投資法だ。
 3が筆者が推奨する投資行動だ。筆者は周囲を観察し、逆張りすべきだと主張する。周囲が積極的な時は資産が割高になっているから慎重に、消極的な時は割安になっているから積極果敢に投資すべきだと言うのだ。

 そのために本書はチェックリストを用意している。いくつか抜粋すると、下記のようなものだ。

景気   堅調 低迷
見通し  明るい 暗い
貸し手  積極的 消極的
金利   低い 高い
yeild spread タイト ワイド
投資家  楽観的 悲観的
売り手  少ない 多い
市場   活況 閑散
パフォーマンス 堅調 軟調
資産価格 高い 低い
期待リターン 低い 高い
リスク  高い 低い
投資トレンド 積極 慎重


 周囲を観察し、チェックリストの右が多ければ積極的に、左が多ければ慎重に投資すべきだと言うのだ。

 投資のセオリーに「落ちたナイフは掴むな」がある。暴落中の株は買わずに、値動きが落ち着いてから買うべきだという教えだ。だが、筆者は「ナイフが床に落ち、混乱がおさまり、不透明感が消えるころには、超お買い得品はまったく残っていない」と主張する。

 逆張り投資家として、願わくば用心深さとスキルを携えて落下するナイフを掴みにいくのが我々の仕事だ。だからこそ、本質的価値という概念が非常に重要な意味を持つ。本質的価値に対する考えを維持し、周りがみな売っているときに買うことができれば(そして、それが正しい判断だったと判明すれば)、それこそが最も少ないリスクで最も高い利益をあげる方法なのである。

 よほど自分の本質的価値の判断に自信がないとできないが、恐怖や強欲の感情に負けないよう、逆張りの意識は忘れずに持っておきたい。


 本書で次に重要なのが、「リスクを意識してディフェンシブに投資すべき」だという主張だ。
 筆者の上げる、リスクとリターンの図が分かりやすい。

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 一般に、ハイリスク商品程リターンは高くなると思われている。だが、リスクの高い資産が確実に高いリターンを生み出すというのなら、その資産はハイリスクではない。リスクの高い投資は先行きがより不確かで、リターンの確率分布の幅が広いのだ。


 強気相場では、攻撃的な投資家ほど高いリターンを上げる。だがそれはたまたま運が良かっただけに過ぎない。従って、高いリターンをあげた投資家=優れた投資家ではない。

 投資家の力量は、自分の投資スタイルに合わない環境において試される。リターンだけに目を向けリスクを軽視していた投資家は、相場の急落で手痛いダメージを受ける。バフェットの「潮が引いて初めて、誰が丸裸で泳いでいたのかがわかる」という言葉が痛烈だ。

 「投資家の仕事とは、利益を得るために、きちんと理解したうえでリスクをとることだ。これがうまくできるかどうかが、すぐれた投資家とそれ以外とを分け隔てる」のだ。

 

 未来は誰にも分からないが、注意深く観察すれば現在のことはある程度知ることができる。未来に起こりうる様々な事態に備えながら、感情に流されず、合理的な投資判断をするよう努めたい。

 

投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識

投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識

 

 

灯油タンクの謎

 明けましておめでとうございます。
 今年も東雲製作所を宜しくお願いします。

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 正月は山形の実家に行っていた。実家は祖父母が住んでいたものを両親が受け継いだものだ。私はずっと千葉に住んでいるので、実家には盆正月に行くだけだ。
 実家では石油ストーブを使っている。燃料が切れた時に補充するのは父の仕事で、私はやり方を知らなかった。だが、父が神社の番に出ている時に灯油が切れてしまった。母も寝ていたので、私が入れることになった。

 ストーブ内のタンクに灯油を入れる土間は写真のようになっていた。

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 家の外にある灯油のタンクから家の中にホースが伸びており、コックをひねると灯油が出るようになっている。ホースの先にはポリタンクがあり、壁に給油ポンプがかかっている。ポリタンクに灯油を入れ、そこから給油ポンプでストーブのタンクに灯油を入れるのだろう。

 ポリタンクに灯油を入れ、給油ポンプをシャコシャコやってみるが、灯油が入らない。ネットで給油ポンプの使い方を確認し、再度挑戦するが、上手くいかない。ポリタンク内の灯油の水位が足りないようだ。
 しかし、私が入れる前、ポリタンクの中に灯油は入っていなかった。水位が低いとポンプが使えないのなら、ポリタンクの底に灯油が残るはずだ。
 一体父はどうやってストーブのタンクに灯油を補給しているのだろうか。

 すると、そこに母が起きてきた。聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「給油ポンプは使わずに、ホースから直接入れているみたいだよ」

 要はこういうことだ。

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 ポリタンクと給油ポンプがこれ見よがしに置いてあったので、使うものだと思い込んでいた。
 固着に囚われてはならぬということを学んだ年始であった。

市場は日経平均225社が来期以降の全利益を足しても赤字だと想定している

 株価は1株当たりの会社の価値だ。会社の価値には現時点での価値である資産価値と、将来生み出す利益を表す事業価値とがある。

理論株価=(資産価値+事業価値)÷株式数=(純資産+当期利益+来期利益+2期後利益+3期後利益+4期後利益+…)÷株式数

1株当たり資産をBPS、1株当たり利益をEPSと呼ぶ。BPSとEPSを使うと、上記の式は下記のように表せる。

理論株価BPS+当期予想EPS+来期予想EPS+2期後予想EPS+3期後予想EPS+4期後予想EPS+…

 もし会社が今後100年存続するなら、100期後利益まで足した額が理論株価となる。

(普通は割引率という概念を導入し、将来の利益は割り引いて考えるのだが、日経平均の割安さを判定するには割引率を考えるまでもなかったので、割愛する。)

 日経平均理論株価に12月21日のBPSやEPSを代入すると下記のようになる。
日経平均理論株価=19390.57+1831.62+1792.55+2期後予想EPS+3期後予想EPS+4期後予想EPS+…

 12月21日時点での日経平均株価は20166.19円。一方、式の一項目と二項目のBPSと当期予想EPSを足すと21222.19となる。

 現在の日経平均時価総額は総資産と当期利益の合計より低い。
 市場は日経平均225社が来期以降トータルとして赤字しか生み出せないと想定している。
 会社は来期利益を1792.55円と予想しているのに、市場は来期以降全ての利益を足しても1056円の赤字だと予想しているのだ。
 いくら何でもそんなわけあるかい!

 日経平均リーマンショック後の2010年頃に1年程赤字になったが、その後は黒字を出し続けている。いくら日本経済の先行きが暗いとはいえ、海外市場で稼いでいる企業も多い。来季以降の全利益を足して赤字ということは考えにくい。
 マネックス証券の広木氏が「こんな相場は間違っている」と書かれていたが、全く同感だ。

 問題は、日本株が米国株と連動して動いており、米国株が下がると価値とは無関係に日本株も下がってしまうことだ。従って、ありえない安さであるにも関わらず、日本株を買っても、米国株が下がる限り下がり続け、損をしかねない。

 だが、長期的に見れば、株価は企業価値を反映する。いずれ株価は純資産に数期分の利益を足した水準まで戻るはずだ。それがいつになるかは誰にも分からないのだが。

圧倒的に賢いことを示せないのなら、アウトサイダーの意見も聞いてくれ

 JR東日本が山手線の新駅名を高輪ゲートウェイに決定した件はネット上を中心にフルボッコにあった。名前がダサいこと以上に反発を招いたのは、公募順位上位の高輪、芝浦、芝浜を抑えて、130位の高輪ゲートウェイが選ばれたことだ。

www.j-cast.com

 問題点は二つあって、一つは民意を無視したことで、投票した人に、我々の意見が無視された、という疎外感を味あわせたこと。もう一つは無視した人たちを納得させられるような説明を示せなかったことだ。

 民意が必ず正しいわけではない。特に専門的な分野では、少数の専門家の方がより適切な判断を下すこともある。だが、その場合、専門家はなぜ民意と違う決定をしたのか説明する必要がある。
 適切な説明がなされなければ、意見を表明していたアウトサイダーは、何を言っても無駄だと感じ、以降は意見を出すことを止めてしまう。
 例えば、今後、JR東日本が利用者から意見を募っても、「またどうせ無視されるんだろ」と思われ、意見を表明する人は減るだろう。口をつぐんだ人の中に、ものすごく良い意見があるかもしれないのに、それを得る機会を逸することになるのだ。

 ここまでのまとめ。インサイダーだけで民意を無視して決定し、納得のいくような説明をしないことの弊害は二つ。アウトサイダーに疎外感を与えることと、今後アウトサイダーから良い意見を得るチャンスを逸することだ。


 今の政府は少数のインサイダーだけで決定しようという姿勢が顕著だ。
 野党の意見によって法案を修正することは稀だし、国民から広く意見を吸い上げて、政策決定に活かそうという姿勢も見られない。
 納得のいくような説明をしないという姿勢も目立つ。野党や記者からの質問に対し、はぐらかしたり、真面目に答えようとしないことが多い。

 少数のインサイダーだけで決める政治とは賢人政治のことだ。賢人政治はインサイダーが民衆より圧倒的に賢い時は有効だ。
 だが、賢人政治には疎外感と良い意見を得る機会の喪失という二つのデメリットがあるのだから、ものすごく賢くなくては釣り合わない。
 全国津々浦々にはあらゆるジャンルの専門家がいるわけで、それらを全部合わせたよりも賢いというのは相当なことだ。少なくとも、アウトサイダーが「ぐぬう」と言って黙るくらい賢くないとダメだ。

 安倍政権が一定の支持を得てきたのは、野党よりは賢いのではないか、という期待を集めてきたからだろう。
 私も、安倍政権の閣僚はともかく、知恵袋となっている官邸官僚は霞ヶ関のキャリア官僚の中で競争を勝ち抜いてきたエリート中のエリートなので、結構賢いのではないかと思っていた。
 だが、最近は賢いことに疑念を抱かせるような政策が目立つ。

 特にひどいのが、消費増税に対する軽減策だ。
 政府は軽減税率に加え、5%と2%が混在するポイント還元制度を実施するつもりのようだ。
 制度を複雑にすればするほど導入コストがかさむのは子供でも分かる話で、とても賢い人が考えた政策とは思えない。
 小売店の人から意見を聞けば、こんな複雑な制度、やってられんわ! という反対論が噴出するはずなのに、なぜ意見を聞いてから決めようとしないのか。

 圧倒的に賢いことを示せないのなら、アウトサイダーの意見も聞いてくれ。