前回の記事では、何にどの程度投資すべきか人によって意見がばらばらだということを書いた。
なぜばらばらかと言うと、人によってリスクをどの程度重視するかが異なっているからだ。
私は債権によるリスクヘッジは必要ないと思う。なぜなら、成長市場の株式インデックスファンドは、20年間続けて投資すればリターンはほぼ平均収益率の前後に収束し、損をするリスクは極めて低くなるからだ。
長期投資によってリスクヘッジしているのに、更に債権でリスクヘッジをするのはやり過ぎだ。
また、投資をする人も当分の生活資金は預金として持っているはずで、これが債権と同じ役割を果たすから、債権を買うのは二重に過剰だ。長期投資をするならエリス氏が言うとおり100%株式で運用すべきだ。
100%株式で運用すべきなのは良いとして、どの地域の株を買うべきだろうか。これについては大きく分けて二つの考え方がある。
一つは効率的市場理論で、「株式市場は効率的に運用されており、割安な株などない。仮にあったとしても事前に知ることはできない。」というものだ。
この考えに従えば、どの国や地域に投資すればリターンが高くなるかは分からない。できるだけ広い銘柄に投資する程、リターンを保ったままリスクを減らすことができるので、世界市場ポートフォリオ、すなわち全世界の時価総額割合で各地域のインデックスファンドに投資するのが良いということになる。
世界市場ポートフォリオには、浮動株補正をするかによって、二つの比率が存在する。
先進国80% 新興国11% 日本9% (補正あり)
先進国65% 新興国28% 日本7% (補正なし)
浮動株補正とは、国や創業者等が保持していて市場に出回っていない株を除外するもので、補正をすると新興国の割合が下がる。
浮動株補正はインデックスファンドの運用上都合が良いだけなので、私は補正しない方が良いと思う。
もう一つは反効率的市場理論で、どの株を買うと儲かるかはある程度予想できるというもの。
高成長株が良いという意見と、低PER株や高配当株といった割安株が良いという意見がある。
どの意見が正しいのか、過去のデータを用いて検証を行った。
検証には「世界各国のPER・PBR・時価総額」の2010年~2018年の3月のデータを用いた。
2010年3月と2018年の3月の時価総額データからキャピタルゲイン(値上がり益)を、各年3月の配当利回りからインカムゲイン(配当益)を算出し、8年間のトータルリターンを算出した。配当再投資は行っていない。
これと2010年3月の実績PER、配当利回りデータの比較を行った。
図1はPERとリターンの比較図だ。横軸がPER、縦軸がリターン(投資額との比)である。
相関係数は0.093でほとんど相関はない。
PERは低い程割安と言われているが、低い程リターンが高くなってはいない。PER11以下の非常に低い国(ギリシャ、スペイン、ロシア、イタリア)ではリターンが低くなっている。これらの国では低いリターンを見越して安値になっていたと考えられる。
PER30以下ではむしろPERが高い国の方がリターンが高い。PER30以上だと割高になっているからかリターンは良くない。
特にリターンが良かったのはフィリピン、タイ、中国。これらは成長国であり、成長国の方がリターンが高いように見える。
PER30以上に高騰している国は割高の恐れがあるが、それ以下ではPERからリターンを予想することはできない。
シーゲル氏が指摘していた「成長の罠」は成長国に投資家の過大な期待が集まってバブルが発生すると株価が割高になり、高成長にも関わらずリターンが低くなってしまうという現象だ。
地域・国 | PER | 地域・国 | PER | |
全世界 | 17.4 | エジプト | 15.4 | |
先進国 | 17.7 | 日本 | 15.2 | |
エマージング国 | 15 | スウェーデン | 14.9 | |
ヨーロッパ | 14 | フランス | 14.5 | |
アジア・パシフィック | 14.1 | ノルウェー | 14.3 | |
BRICs | 14.7 | カナダ | 13.8 | |
インド | 23.2 | 台湾 | 13.8 | |
スイス | 23 | オランダ | 13.7 | |
フィンランド | 22 | 中国 | 13.6 | |
米国 | 21.9 | 英国 | 13.2 | |
ギリシャ | 21.7 | コロンビア | 13.2 | |
南アフリカ | 21.3 | オーストリア | 13 | |
ペルー | 20.2 | 香港 | 12.8 | |
フィリピン | 19.9 | ポルトガル | 12.3 | |
ニュージーランド | 19.7 | パキスタン | 12.1 | |
チリ | 19.7 | ドイツ | 12 | |
デンマーク | 19.1 | チェコ | 11.6 | |
ブラジル | 18.5 | スペイン | 11.5 | |
メキシコ | 17.7 | ポーランド | 10.4 | |
インドネシア | 16.9 | イタリア | 10.3 | |
マレーシア | 16.9 | ハンガリー | 10 | |
オーストラリア | 16.6 | 韓国 | 9.5 | |
シンガポール | 16.1 | ロシア | 8.2 | |
アイルランド | 16 | トルコ | 7.5 | |
タイ | 15.5 | イスラエル | マイナス | |
ベルギー | 15.4 |
表1は2018年4月の各国実績PERだ。2月に株価が暴落したため、現在各国のPERは低水準となっている。
PERは最高でもインドの23.2であり、バブルと呼ぶ程の水準ではない。現時点ではどの国に投資しても「成長の罠」にはまる可能性は低い。
図2は配当利回りとリターンの比較図だ。横軸が配当利回り(%)、縦軸がリターンである。
相関係数は-0.074。ほとんど相関は見られない。
チェコのように配当利回りは最高なのにリターンはマイナスな国もあるし、リターンが高かった三ヶ国の内、フィリピンとタイはそれほど配当利回りが高くない。
配当利回りからリターンを予想することは難しい。
フィリピン、タイ、中国のリターンが高かったことから、GDP成長率との相関が高そうだ。
世界各国のGDP成長率と株価の相関によると、株価は名目GDPと相関が高いとのことだ。
2010年~2018年の名目GDP成長率とリターンの比較図が図3だ。
相関係数は0.313となり、弱い相関がみられた。右下端のエジプトが大きく相関を下げており、エジプトを除いた相関係数は0.430となった。
エジプトのような例外はあるものの、名目GDP成長率とリターンにはある程度の相関が見られることが分かった。
Country | 2022/2018 | Country | 2022/2018 | |||
1 | Sudan | 1.849 | 33 | Singapore | 1.199 | |
2 | Nigeria | 1.840 | 34 | Brazil | 1.195 | |
3 | Egypt | 1.539 | 35 | Sweden | 1.195 | |
4 | Morocco | 1.528 | 36 | Israel | 1.191 | |
5 | India | 1.478 | 37 | Russia | 1.185 | |
6 | Pakistan | 1.463 | 38 | Belgium | 1.176 | |
7 | Ukraine | 1.448 | 39 | South Korea | 1.176 | |
8 | Indonesia | 1.447 | 40 | Denmark | 1.166 | |
9 | Vietnam | 1.432 | 41 | Canada | 1.164 | |
10 | Malaysia | 1.428 | 42 | United States | 1.164 | |
11 | Philippines | 1.428 | 43 | South Africa | 1.163 | |
12 | Bangladesh | 1.428 | 44 | Hong Kong | 1.163 | |
13 | China | 1.401 | 45 | Hungary | 1.162 | |
14 | Chile | 1.386 | 46 | Saudi Arabia | 1.149 | |
15 | Argentina | 1.361 | 47 | Finland | 1.147 | |
16 | Kazakhstan | 1.340 | 48 | Spain | 1.147 | |
17 | Kuwait | 1.285 | 49 | Austria | 1.144 | |
18 | Thailand | 1.270 | 50 | Italy | 1.144 | |
19 | Iraq | 1.262 | 51 | France | 1.143 | |
20 | Peru | 1.262 | 52 | Algeria | 1.138 | |
21 | Turkey | 1.250 | 53 | Greece | 1.135 | |
22 | Colombia | 1.248 | 54 | Germany | 1.131 | |
23 | Mexico | 1.241 | 55 | Portugal | 1.126 | |
24 | Czech Republic | 1.238 | 56 | Taiwan | 1.125 | |
25 | Romania | 1.234 | 57 | Netherlands | 1.125 | |
26 | United Arab Emirates | 1.234 | 58 | Angola | 1.119 | |
27 | Slovakia | 1.230 | 59 | Switzerland | 1.113 | |
28 | Qatar | 1.224 | 60 | United Kingdom | 1.113 | |
29 | Poland | 1.221 | 61 | Norway | 1.101 | |
30 | Ireland | 1.210 | 62 | Japan | 1.083 | |
31 | New Zealand | 1.207 | 63 | Iran | 1.066 | |
32 | Australia | 1.205 | 64 | Venezuela | 0.559 |
表2は主要国についてIMFの2022年予想名目GDPと2018年GDPから2022年までの4年間のGDP成長率を算出したものだ。
アフリカ、南アジア、東南アジア諸国が上位に並んでいる。
先進国は軒並み低く、中でも日本は下から三番目である。
高成長国に直接投資しようとするのは、コストが高く、リスクも高いのでお勧めできない。
日本から低コストのインデックスファンドで投資できるのは日本、アメリカ、先進国、新興国の4地域だ。
先進国、新興国は指標にそって各国株式を組み合わせたものだ。代表的な指標の組入比率は下記の通りだ。
先進国(MSCIコクサイ)
アメリカ65.74%、イギリス7.05%、フランス4.33%、ドイツ3.97%、カナダ3.69%、スイス3.2%、オーストラリア2.69%、オランダ1.46%、香港1.37%、スペイン1.32%
新興国(MSCIエマージング)
中国(含ケイマン諸島)中国25.82%、韓国15.08%、台湾11.52%、インド8.2%、ブラジル7.51%、南アフリカ6.62%、ロシア3.61%、香港3.29%、メキシコ2.92%
国内で買えるインデックスファンド、ETFでは、
日本→iシェアーズTOPIX ETF(信託報酬0.06%)
アメリカ→SPDR S&P500 ETF(信託報酬0.0945%)
先進国→eMAXIS slim 先進国株式INDEX(信託報酬0.1095%)
新興国→EXE-iつみたて新興国株式(信託報酬0.1804%)、eMAXIS slim 新興国株式INDEX(信託報酬0.19%)
が低コストである。
先進国(MSCIコクサイ)、新興国(MSCIエマージング)について、各指数の各国組み込み比率から4年間GDP成長見込みを算出すると、下記のようになる。
日本 8.27%
アメリカ 16.36%
先進国 15.67%
新興国 27%
新興国が圧倒的に高い。新興国インデックスファンドは過去20年間のリターンも最も高いので、世界市場ポートフォリオより割合を増やすべきだ。
アメリカの方が先進国より成長率が高いが差はわずかだ。分散が高い方がリスクヘッジになるので、先進国を採用する。
この結果から、下記の3通りのポートフォリオが導ける。
1)先進国56% 新興国41% 日本3%
時価総額割合に成長率をかけてウェイトを算出したもの。3種類の中では比較的穏当。
2)先進国37% 新興国63%
成長率が極めて低い日本はカットし、成長率の比で先進国と新興国を割り振ったもの。
3)新興国100%
長期投資によってリスクヘッジをしているのだから、最も予想リターンが高いものに全ぶっこみすべきだろうというストロングスタイルな考え方。
ファンドの海のツールで各ポートフォリオのリターンとリスクを算出すると下記のようになった。
1)期待リターン(年率)6.74%、リスク(年率)21.58%
2)期待リターン(年率)7.68%、リスク(年率)23.33%
3)期待リターン(年率)9.25%、リスク(年率)26.25%
4年間GDP成長率が27%なのでリターンはこれほど高くはならないだろうが、リスクは参考になる。
リスクとは標準偏差のことだ。リスクの2倍以上損をする確率は2.5%である。3)の場合、1年間で投資額の52.5%以上吹き飛ぶ可能性が2.5%あるということだ。
これらのポートフォリオはかなりリスキーなので、絶対に生活資金を投入してはならない。
新興国株式が暴落したタイミングで金が必要になり、投資信託を解約しなくてはならなくなったら、大損する恐れがある。
もし真似をするのなら、20年以上塩漬けにしても良い資金で行って欲しい。
7/13追記
純利益成長率とROEによる検証では新興国は有望ではないという結果になった。
2)と3)は止めた方が良いと思われます。