東雲製作所

東雲長閑(しののめのどか)のよろず評論サイトです。

どの国に投資すべきか

 前回の記事では、何にどの程度投資すべきか人によって意見がばらばらだということを書いた。
 なぜばらばらかと言うと、人によってリスクをどの程度重視するかが異なっているからだ。

 私は債権によるリスクヘッジは必要ないと思う。なぜなら、成長市場の株式インデックスファンドは、20年間続けて投資すればリターンはほぼ平均収益率の前後に収束し、損をするリスクは極めて低くなるからだ。
 長期投資によってリスクヘッジしているのに、更に債権でリスクヘッジをするのはやり過ぎだ。
 また、投資をする人も当分の生活資金は預金として持っているはずで、これが債権と同じ役割を果たすから、債権を買うのは二重に過剰だ。長期投資をするならエリス氏が言うとおり100%株式で運用すべきだ。


 100%株式で運用すべきなのは良いとして、どの地域の株を買うべきだろうか。これについては大きく分けて二つの考え方がある。
 一つは効率的市場理論で、「株式市場は効率的に運用されており、割安な株などない。仮にあったとしても事前に知ることはできない。」というものだ。
 この考えに従えば、どの国や地域に投資すればリターンが高くなるかは分からない。できるだけ広い銘柄に投資する程、リターンを保ったままリスクを減らすことができるので、世界市場ポートフォリオ、すなわち全世界の時価総額割合で各地域のインデックスファンドに投資するのが良いということになる。
 世界市場ポートフォリオには、浮動株補正をするかによって、二つの比率が存在する。

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 先進国80% 新興国11% 日本9% (補正あり) 

 

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 先進国65% 新興国28% 日本7% (補正なし) 

 浮動株補正とは、国や創業者等が保持していて市場に出回っていない株を除外するもので、補正をすると新興国の割合が下がる。
 浮動株補正はインデックスファンドの運用上都合が良いだけなので、私は補正しない方が良いと思う。


 もう一つは反効率的市場理論で、どの株を買うと儲かるかはある程度予想できるというもの。
 高成長株が良いという意見と、低PER株や高配当株といった割安株が良いという意見がある。
 どの意見が正しいのか、過去のデータを用いて検証を行った。

 検証には「世界各国のPER・PBR・時価総額」の2010年~2018年の3月のデータを用いた。
 2010年3月と2018年の3月の時価総額データからキャピタルゲイン(値上がり益)を、各年3月の配当利回りからインカムゲイン(配当益)を算出し、8年間のトータルリターンを算出した。配当再投資は行っていない。
 これと2010年3月の実績PER、配当利回りデータの比較を行った。

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 図1はPERとリターンの比較図だ。横軸がPER、縦軸がリターン(投資額との比)である。
 相関係数は0.093でほとんど相関はない。
 PERは低い程割安と言われているが、低い程リターンが高くなってはいない。PER11以下の非常に低い国(ギリシャ、スペイン、ロシア、イタリア)ではリターンが低くなっている。これらの国では低いリターンを見越して安値になっていたと考えられる。
 PER30以下ではむしろPERが高い国の方がリターンが高い。PER30以上だと割高になっているからかリターンは良くない。
 特にリターンが良かったのはフィリピン、タイ、中国。これらは成長国であり、成長国の方がリターンが高いように見える。
 PER30以上に高騰している国は割高の恐れがあるが、それ以下ではPERからリターンを予想することはできない。

 シーゲル氏が指摘していた「成長の罠」は成長国に投資家の過大な期待が集まってバブルが発生すると株価が割高になり、高成長にも関わらずリターンが低くなってしまうという現象だ。

地域・国 PER   地域・国 PER
全世界 17.4   エジプト 15.4
先進国 17.7   日本 15.2
エマージング 15   スウェーデン 14.9
ヨーロッパ 14   フランス 14.5
アジア・パシフィック 14.1   ノルウェー 14.3
BRICs 14.7   カナダ 13.8
インド 23.2   台湾 13.8
スイス 23   オランダ 13.7
フィンランド 22   中国 13.6
米国 21.9   英国 13.2
ギリシャ 21.7   コロンビア 13.2
南アフリカ 21.3   オーストリア 13
ペルー 20.2   香港 12.8
フィリピン 19.9   ポルトガル 12.3
ニュージーランド 19.7   パキスタン 12.1
チリ 19.7   ドイツ 12
デンマーク 19.1   チェコ 11.6
ブラジル 18.5   スペイン 11.5
メキシコ 17.7   ポーランド 10.4
インドネシア 16.9   イタリア 10.3
マレーシア 16.9   ハンガリー 10
オーストラリア 16.6   韓国 9.5
シンガポール 16.1   ロシア 8.2
アイルランド 16   トルコ 7.5
タイ 15.5   イスラエル マイナス
ベルギー 15.4      


 表1は2018年4月の各国実績PERだ。2月に株価が暴落したため、現在各国のPERは低水準となっている。
 PERは最高でもインドの23.2であり、バブルと呼ぶ程の水準ではない。現時点ではどの国に投資しても「成長の罠」にはまる可能性は低い。

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 図2は配当利回りとリターンの比較図だ。横軸が配当利回り(%)、縦軸がリターンである。
 相関係数は-0.074。ほとんど相関は見られない。
 チェコのように配当利回りは最高なのにリターンはマイナスな国もあるし、リターンが高かった三ヶ国の内、フィリピンとタイはそれほど配当利回りが高くない。
 配当利回りからリターンを予想することは難しい。

 フィリピン、タイ、中国のリターンが高かったことから、GDP成長率との相関が高そうだ。
 

 世界各国のGDP成長率と株価の相関によると、株価は名目GDPと相関が高いとのことだ。

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 2010年~2018年の名目GDP成長率とリターンの比較図が図3だ。
 相関係数は0.313となり、弱い相関がみられた。右下端のエジプトが大きく相関を下げており、エジプトを除いた相関係数は0.430となった。
 エジプトのような例外はあるものの、名目GDP成長率とリターンにはある程度の相関が見られることが分かった。

  Country 2022/2018     Country 2022/2018
1  Sudan 1.849   33  Singapore 1.199
2  Nigeria 1.840   34  Brazil 1.195
3  Egypt 1.539   35  Sweden 1.195
4  Morocco 1.528   36  Israel 1.191
5  India 1.478   37  Russia 1.185
6  Pakistan 1.463   38  Belgium 1.176
7  Ukraine 1.448   39  South Korea 1.176
8  Indonesia 1.447   40  Denmark 1.166
9  Vietnam 1.432   41  Canada 1.164
10  Malaysia 1.428   42  United States 1.164
11  Philippines 1.428   43  South Africa 1.163
12  Bangladesh 1.428   44  Hong Kong 1.163
13  China 1.401   45  Hungary 1.162
14  Chile 1.386   46  Saudi Arabia 1.149
15  Argentina 1.361   47  Finland 1.147
16  Kazakhstan 1.340   48  Spain 1.147
17  Kuwait 1.285   49  Austria 1.144
18  Thailand 1.270   50  Italy 1.144
19  Iraq 1.262   51  France 1.143
20  Peru 1.262   52  Algeria 1.138
21  Turkey 1.250   53  Greece 1.135
22  Colombia 1.248   54  Germany 1.131
23  Mexico 1.241   55  Portugal 1.126
24  Czech Republic 1.238   56  Taiwan 1.125
25  Romania 1.234   57  Netherlands 1.125
26  United Arab Emirates 1.234   58  Angola 1.119
27  Slovakia 1.230   59   Switzerland 1.113
28  Qatar 1.224   60  United Kingdom 1.113
29  Poland 1.221   61  Norway 1.101
30  Ireland 1.210   62  Japan 1.083
31  New Zealand 1.207   63  Iran 1.066
32  Australia 1.205   64  Venezuela 0.559

 表2は主要国についてIMFの2022年予想名目GDPと2018年GDPから2022年までの4年間のGDP成長率を算出したものだ。
 アフリカ、南アジア、東南アジア諸国が上位に並んでいる。
 先進国は軒並み低く、中でも日本は下から三番目である。
 
 高成長国に直接投資しようとするのは、コストが高く、リスクも高いのでお勧めできない。
 日本から低コストのインデックスファンドで投資できるのは日本、アメリカ、先進国、新興国の4地域だ。
 先進国、新興国は指標にそって各国株式を組み合わせたものだ。代表的な指標の組入比率は下記の通りだ。

 先進国(MSCIコクサイ)
アメリカ65.74%、イギリス7.05%、フランス4.33%、ドイツ3.97%、カナダ3.69%、スイス3.2%、オーストラリア2.69%、オランダ1.46%、香港1.37%、スペイン1.32%

 新興国(MSCIエマージング)
中国(含ケイマン諸島)中国25.82%、韓国15.08%、台湾11.52%、インド8.2%、ブラジル7.51%、南アフリカ6.62%、ロシア3.61%、香港3.29%、メキシコ2.92%

 国内で買えるインデックスファンド、ETFでは、
日本→iシェアーズTOPIX ETF(信託報酬0.06%)
アメリカ→SPDR S&P500 ETF(信託報酬0.0945%)
先進国→eMAXIS slim 先進国株式INDEX(信託報酬0.1095%)
新興国→EXE-iつみたて新興国株式(信託報酬0.1804%)、eMAXIS slim 新興国株式INDEX(信託報酬0.19%)
が低コストである。

 

 先進国(MSCIコクサイ)、新興国(MSCIエマージング)について、各指数の各国組み込み比率から4年間GDP成長見込みを算出すると、下記のようになる。

日本 8.27%
アメリカ 16.36%
先進国 15.67%
新興国 27%

 新興国が圧倒的に高い。新興国インデックスファンドは過去20年間のリターンも最も高いので、世界市場ポートフォリオより割合を増やすべきだ。
 アメリカの方が先進国より成長率が高いが差はわずかだ。分散が高い方がリスクヘッジになるので、先進国を採用する。
 
 この結果から、下記の3通りのポートフォリオが導ける。
1)先進国56% 新興国41% 日本3%

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時価総額割合に成長率をかけてウェイトを算出したもの。3種類の中では比較的穏当。

 

2)先進国37% 新興国63%

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成長率が極めて低い日本はカットし、成長率の比で先進国と新興国を割り振ったもの。

 

3)新興国100%

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長期投資によってリスクヘッジをしているのだから、最も予想リターンが高いものに全ぶっこみすべきだろうというストロングスタイルな考え方。


 ファンドの海のツールで各ポートフォリオのリターンとリスクを算出すると下記のようになった。

1)期待リターン(年率)6.74%、リスク(年率)21.58%
2)期待リターン(年率)7.68%、リスク(年率)23.33%
3)期待リターン(年率)9.25%、リスク(年率)26.25%

 4年間GDP成長率が27%なのでリターンはこれほど高くはならないだろうが、リスクは参考になる。

 リスクとは標準偏差のことだ。リスクの2倍以上損をする確率は2.5%である。3)の場合、1年間で投資額の52.5%以上吹き飛ぶ可能性が2.5%あるということだ。

 

 これらのポートフォリオはかなりリスキーなので、絶対に生活資金を投入してはならない。
 新興国株式が暴落したタイミングで金が必要になり、投資信託を解約しなくてはならなくなったら、大損する恐れがある。
 もし真似をするのなら、20年以上塩漬けにしても良い資金で行って欲しい。

guide.fund-no-umi.com

 

7/13追記

 純利益成長率とROEによる検証では新興国は有望ではないという結果になった。

2)と3)は止めた方が良いと思われます。

shinonomen.hatenablog.com

著名投資家のアセットアロケーションまとめ

 前回の記事で資金は出来るだけ速やかに投資する方が良いと分かった。問題は投資先だ。

 投資関係の様々な本やサイトを読みあさった結果、幅広い銘柄に少しずつ投資することでリスクを分散するインデックス投資が良いということが分かった。具体的にはインデックスファンドやETFを買えば、少額で分散投資をすることができる。
 だが、インデックスファンドには、国内、先進国、新興国といった地域別や、株式、債権、不動産(リート)といった対象別に様々な種類がある。問題は何にどういう割合で投資すべきなのか、人によって言っていることがバラバラだということだ。
 まずは、色々な人が提唱されているアセットアロケーション(資産配分)を見比べてみよう。

 

1)勝間和代氏のアセットアロケーション

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国内株式 25%
国内債券 25%
海外株式 25%
海外債権 25%

 『お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践』(勝間和代著、光文社新書)の中で勝間氏が資産四分法として提唱されていたアセットアロケーション
お金は銀行に預けるな』は「金融の相場は予測することができない」といったインデックス投資の勘所が分かりやすく書かれた啓蒙書で、四資産に等分投資しろという主張も分かりやすい。
 ただし、本書が書かれた当時は債権の金利が今よりずっと高かった。勝間氏が現在も1:1:1:1がベストとお考えかどうかは分からない。

 

 

2)山崎元氏のアセットアロケーション

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国内株式 50%
海外株式 50%

 『全面改訂 ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド』(山崎元、水無瀬ケンイチ著、朝日新書)の中で山崎氏が提唱されていたアセットアロケーション
 山崎氏の主張の特徴は、現在先進国債権が歴史的低金利なので、日本の長期金利が2%を超えるまではリスク資産は「国内株式」+「外国株式」だけで良いと言われていることだ。(無リスク資産としては個人向け国債・変動金利10年満期型は買っても良いとは言われている。)
 ベストな数字は「内株:外株=4:6」だが、リバランスの手間がかかるとも書かれているので、リバランスの手間を厭わないのなら国内株式:海外株式=40%:60%の方が良いかも知れない。
 山崎氏の主張で重要なのが、「資本主義市場の価格決定メカニズムを考えると、経済が低成長あるいはマイナス成長であっても、株式投資は「それなりに(リスクなりに)儲かるはず」。何故なら、低成長は株価に既に織り込まれてリスクなりの利回りになっているから。」というもの。見落とされがちな指摘で感心した。

 『ほったらかし投資術』は「50%はTOPIX連動型のETF、50%を外国株式インデックスファンド」という風に、やるべきことが順を追って具体的に書かれているのが特徴的で、本書を読むだけで予備知識がない人でもインデックス投資を行うことができる。

 

 


3)橘玲氏のアセットアロケーション

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世界市場ポートフォリオ 80% 
 国内株式 12% 
 海外株式 68%
トレーディング・個別株投資 20%

 『臆病者のための株入門』(橘玲著、文春新書)で橘氏が「トーシロ投資法」として提唱されていたアセットアロケーション。リスクのとれる金融資産の8割をインデックス投資にあて、残りの2割をトレーディングや個別株投資で楽しむことを提案されている。
 国内株式:海外株式=1:1が最適なのは時価総額の世界におけるシェアが50%あるアメリカの場合であり、日本は15%しかないのだから15%にすべき。投資は余裕資金で行うのだから為替リスクを気にする必要はない。という主張には目から鱗が落ちた。
(15%というのは当時の比率で、現在なら約10%に相当する。)

 『臆病者のための株入門』は投資の流派を「トレーディング」「インデックスファンド」「バフェット流」に分け、合理的な方法は市場の歪みを利用するか、長期投資で樹から果実が落ちるのを待つかしかない。と指摘した上で、
1トレーディングは歪みを利用
2インデックスファンドは長期投資
3バフェット流は歪み+長期投資
と明快に整理している。
 ほとんどの本は3流派のどれかに肩入れして書かれているのに対し、本書は中立的立場で書かれているので、投資に関する全体的主張を俯瞰的に把握することができる。

 

 

4)バートン・マルキール氏のアセットアロケーション

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現金 5%
債権 27.5%
不動産 12.5%
株式 55%
 アメリカ株 27%
 先進国株 14%
 新興国株 14%

ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の真理 原著第10版』(バートン・マルキール著、井手正介訳、日本経済新聞出版社)でマルキール氏が50代半ばの人のために提唱されていたアセットアロケーション
 より大きなリスクが取れる20代半ばの投資家には
現金5%
債権15%
不動産10%
株式70%
を提案されている。
 IMFが当分の間高成長を見込んでいるという理由で、新興国の割合を高めにしているという特徴がある。

 『ウォール街のランダム・ウォーカー』はあらゆる人が薦めているインデックス投資のバイブル。厚い本だが、歴史上の様々なバブルにおけるアホな狂乱の話から始まって、テクニカル分析ファンダメンタル分析、新興の行動ファイナンス学派によるあらゆる「株式市場は予測可能だ」とする主張を滅多斬りにしていて、ぐいぐい引き込まれる。
 特に印象に残ったエピソードは、画面上でランダムに動くボールを見せかけの装置でコントロールする実験を行った所、ほとんどの被験者は「かなりうまくボールの動きをコントロールできたと思う」と答えた。惑わされなかった被験者は全員重度のうつ病患者だった。というもの。世界を正しく認識する者はうつ病になってしまうということを示唆していて興味深い。
 マルキール氏は効率的市場理論を高らかに主張されているのだが、それは市場は常に正しいという訳ではなく、市場を一貫して正しく予測することはできない、つまり市場が間違っていても事前にどう間違っているか分からないから市場の歪みを利用して儲けたりはできないと言っているだけだということには注意が必要だ。
 結論としては「幅広い銘柄に分散された、低コストのインデックス・ファンドを保有するべき」に尽きるのだが、様々な「市場は部分的に予測可能だ」とする理論が紹介されているので、インデックス投資より高いリターンを上げたいと考えている人にも参考になる。

 

 

5)チャールズ・エリス氏のアセットアロケーション

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株式 100%

 『敗者のゲーム なぜ資産運用に勝てないのか』(チャールズ・エリス著、鹿毛雄二訳、日本経済新聞社)は投資家へのアドバイス集のような内容で、投資計画を文書化しろ、底値で買って天井で売ろうとするな、など役に立つ心得が多数記されている。だが、最も重要なのは、十年以上運用する資産はすべて株式に投資しろという主張だ。
 債権を買う人はインフレのリスクを軽視している。長期の収益率は平均収益率に近くなるのだから、平均収益率が高い株を買うべきだとの主張が力強い。 投資のリターンは投資の腕より、どれだけの資金を値動きが大きい株式に投入できるかという心の強さによって決まるのではないか。

 

 


6)ジェレミー・シーゲル氏のアセットアロケーション

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株式投資 100%
ワールド・インデックスファンド 50%
 米国株 30%
 非米国株 20%
リターン補完戦略 50%(各10~15%)
 高配当戦略
 グローバル戦略
 セクター戦略
 バリュー戦略

 『株式投資の未来 永続する会社が本当の利益をもたらす』(ジェレミー・シーゲル著、瑞穂のりこ訳、日経BP社)の結論としてシーゲル氏が提示されていたアセットアロケーション。半分は世界のインデックスファンドに投資し、半分は個別株投資で市場平均以上のリターンを狙う戦略を提示されている。
 シーゲル氏がユニークなのは、配当を再投資すると仮定して計算すると、低成長企業の方が高成長企業よりもリターンが高くなる。高成長の企業、セクター、国は投資家の期待を集めて実態以上に値上がりしており、投資すると「成長の罠」にはまる。と主張されている点。
 普通、高成長な方がリターンが高くなると思いがちだが、その投資家の思い込みによって資金が集中するから逆にリターンが低くなるという指摘に目を開かれた。
 通常、リターンは株の値動きだけで計算し、配当のことは無視しがちだが、シーゲル氏はS&P500全社のリターンを配当込みでコツコツ計算して、高成長企業より、高配当企業や低PER企業、ヘルスケアや生活必需品等の老舗企業の方がリターンが高いと結論づけており、説得力がある。

 

 

7)たぱぞう氏のアセットアロケーション

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米国株式 70%(VTI35%,VYM35%)
米国債券 30%(BND)

 ウェブサイト『たぱぞうの米国株投資』でたぱぞう氏が、誰でもできる海外投資として提唱されていたアセットアロケーション
 たぱぞう氏ご自身は米国個別株を中心に運用されている。

 たぱぞう氏の主張は日本のような成熟市場ではインデックスで勝てるかどうか分からない。右肩上がりの成長国であり、投資環境が整備されている米国に集中投資すべきというもの。
 たぱぞう氏は労働人口増加国であることを最も重視しており、中国、韓国、台湾、タイ等将来の人口減少国は積極的に組み入れられないと主張されている。
 過去の株価や人口推移のグラフを用いた説明は分かりやすい。

www.americakabu.com

 

8)水無瀬ケンイチ氏のアセットアロケーション

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日本株式 7%
先進国株式 49%
新興国株式 14%
日本債権 30%

 ウェブサイト『梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)』で水瀬ケンイチ氏が提唱されているアセットアロケーションの内の一つ。日本債権の割合を変えた複数のパターンを提示されていたのだが、ご自身は日本債権が30%になるようリバランスすると書かれていたので、30%のバージョンを採用した。
 水無瀬氏は「はじめての投資!おススメの一冊」で1位を獲得した単著『お金は寝かせて増やしなさい』では単一の最適アセットアロケーションは提示されていない。最適なアセットアロケーションは人によるという考えのようで、『ファンドの海』の「長期投資予想/アセットアロケーション分析」等のツールを使って自分で決めるよう提案されている。
 水無瀬氏は資産配分の肝は日本債権であり、自分のリスク許容度に応じて日本債権の割合を変化させるべきだと主張されている。『敗者のゲーム』を読むと100%株式こそベストだと感じるが、長年の経験を持つ水無瀬氏がこう言うということは、実際には100%株式のストロングスタイルを貫くのは難しいのかも知れない。

 

randomwalker.blog19.fc2.com

 


9)年金積立金管理運用独立行政法人アセットアロケーション

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国内株式 25%
外国株式 25%
国内債券 35%
国債券 15%

 年金を運用している独立行政法人が基本ポートフォリオとして公開しているもの。年金を運用するだけあって、かなり手堅いアセットアロケーションになっている。
 勝間氏紹介の資産四分法に近いが、リスクを減らすため国内債券が多く、リターンの割に為替リスクが大きい外国債券の割合が低くなっている。

www.gpif.go.jp

 

10)全員の平均アセットアロケーション
インデックス投資は皆の平均を取り続ける戦略なので、9人の平均を取ってみた。細かい配分が書いてないものに関しては、時価総額割合で配分した。また、橘氏のインデックス部分は現在の世界市場ポートフォリオに置き換えた。

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日本株式 14.47%
米国株式 34.01%
先進国株式 13.82%
新興国株式 7.15%
日本債券 10%
米国債券 8.88%
先進国債券 1.42%
新興国債券 0.54%
個別株  7.78%
不動産・現金 1.94%

大まかに言うと、
日本株式 14%
外国株式 55%
日本債権 10%
国債券 11%
個別株  8%
その他  2%
である。
 そこそこ妥当なアセットアロケーションではあるまいか。

 私は株式時価総額の割合を元に、市場の有望性を見て多少割合を変えるべきではないかと考えている。
 具体的なことは次回に書く予定だ。

 

shinonomen.hatenablog.com

一括投資と積み立て投資を比較する

 『全面改訂ほったらかし投資術』(山崎元、水無瀬ケンイチ著、朝日新書)の中で、山崎元氏が一括投資の有効性について書かれていた。


 定期的に一定額を積み立てる方法は「ドルコスト平均法」と呼ばれる方法で、しばしば投資家にとってリスクが低減できる有利な方法だと説明されています。(中略)

 しかし、ドルコスト平均法を含めて「時間分散」を行う投資法は、投資すべき資金が既にあり、最適な投資額が決っているとすると、時間・手間・コストがそれぞれ余計にかかるのと共に、投資が完了するまでの期間に十分機会を利用できない「機会コスト」もかかるので、「気休めにはなっても、合理的ではない方法」です。

 既に運用資金をお持ちの方は、どの道「いいタイミング」など分からない中で平均的に有利だと思うからリスク資産に投資するのですから、ご自分にとっての適正投資額を遠慮なく1回で投資してしまってください(「一括投資」)。

 

 株価は平均的には徐々に高くなるから早めに全額を投資しきった方が確かにリターンは多くなりそうだ。だが、ドルコスト平均法にも平均取得株価を引き下げる効果がある。

 山崎氏が言われていることは本当だろうか。実際のデータで検証を行った。

 検証には日経平均株価の2015年1月~2018年3月の始値データを用いた。

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 100万円の資金を一括投資は初日に一括投資する。一方、積み立て投資は100日かけて1万円ずつ投資するものとした。
 検証期間は2015年1月5日から2017年10月31日(2018年3月30日の100営業日前)までの全営業日。

 日経平均株価で取得できる金融商品を1単位とし、期間中の全ての営業日について両者の合計取得単位数を算出。100日後の終値で換金した場合のリターンを計算した。

 一括投資の平均利回り(年換算)は7.42%、積み立て投資は2.97%となり、一括投資が上回った。

 695日中、一括購入法が上回った日は446日、積み立て投資が上回った日は249日だった。一括投資の勝率は概ね64.2%だった。

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 両投資法利回りの頻度分布を示す。縦軸が年間利回りを示す。一括投資はハイリスクハイリターン、積み立て投資はローリスクローリターンであることが分かる。 散らばり具合(=リスク)を示す標準偏差は一括投資が24.90、積み立て投資が14.69だった。

 金融商品のリスク当たりのリターンを示す指標にシャープレシオがあり、以下の式で表される。
 シャープレシオ=(投資商品のリターン-無リスク利子率)÷ 投資商品の年率リスク
 無リスク利子率を10年国債金利の0.05%として、両投資法のシャープレシオを計算すると、一括投資が0.30、積み立て投資が0.20となり、やはり一括投資が上回った。

 

 株価は年平均7%程度上昇すると言われている。100日もかけて購入するのは機会損失が大きすぎるようだ。そこで10日かけて10万円ずつ投資する方法についても同様に100日後のリターンを計算した所、次のような結果となった。

 10日積み立て投資: 平均利回り6.91%、標準偏差23.95、シャープレシオ0.29

 一括投資       : 平均利回り7.42% 標準偏差24.90、シャープレシオ0.30

 やはり利回り、シャープレシオ共に一括投資が上回った。連続した10日程度の分散では、リスクを十分に減らせないことが分かった。


 長期間の積み立てでは機会損失が大きく、短期間ではリスクを十分に減らせない。やはり山崎氏が言う通り、ある程度のリスクには目をつぶって一括投資するのが合理的なようだ。 


結論:積み立て投資より一括投資の方が合理的である。

 

PS.だが、実際に自分が投資をする段になるとびびってしまい、一回で全額を投資することはできなかった。一括投資最大の問題は心理的抵抗を振り払うことが難しいことかも知れない。

 

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フィクションの感動はバズらない――ゆるキャン△第5話感想

 アニメ「ゆるキャン△」(あfろ原作、京極義昭監督)の白眉と言えば第5話「二つのキャンプ、二人の景色」だろう。
 ゆるキャン△は女子高生がまったりキャンプをするという癒し系の作品だが、「アニメ「ゆるキャン」で東山奈央が「くぁwせdrftgyふじこlp」を全力で発音」した件など、ネタ的にも盛り上がりを見せていた。中でも第5話「二つのキャンプ、二人の景色」はおっぱいとパスタで話題になった。

 おっぱいというのは、開始6秒で登場した下着姿の犬山あおいが巨乳だったと明らかになるシーンで、衝撃を受けた視聴者が続々と犬山あおいのイラストを書き始めたらしい。はてなでも
「犬山あおいの胸問題」を考察する ~重力による乳の実在性獲得仮説~
巨乳主義の精神とプロテスタンティズムの倫理  という二つの記事が同時にホットエントリー入りを果たしておっぱい祭りみたいになっていた。

wasasula.hatenablog.com

honeshabri.hatenablog.com


 前者の「本編開始より6秒」。ウサイン・ボルトよりも速い。も印象深いが、後者は面白いだけでなく現在の世界がプロテスタント的価値観に支配されていることが良く分かる、大変勉強になる記事で感心した。

 

 同じ5話では、中盤あたりで志摩リンがパスタを真っ二つに折ったシーンでイタリア人が激怒したことも話題になった。

www.all-nationz.com


アウトドア用の小鍋に入らないんだからしょうがないだろうと思うが、それだけイタリア人はパスタに思い入れが強いのだろう。

 

 だが、実際に5話を見てみると、おっぱいもパスタもさほど印象に残らなかった。演出的にも特におっぱいやパスタを強調するSEが使われている訳でもない。作り手が意図していない細部に視聴者が勝手に食いついたという印象だ。

 それより私はラストシーンに感動し、泣いてしまった。5話はなでしこ達野外活動サークルの三人が山梨に、リンが長野にキャンプに出かけた様を交互に描く。こういう部活ものでは、リンのように単独行動を愛する人も、ハルヒみたいな奴に強引に仲間に引きずり込まれ、そのうち仲間って良いな、と宗旨替えしてしまうことが多い。だが、本作ではリンもなでしこも互いの意志を尊重し、自由を愛するリンは一人で、仲間とわいわいやるのが好きななでしこは仲間と一緒にキャンプに出かける。


 別の場所に出かけた二人だが、LINEによってつながっている。この自由でいたいが繋がってもいたいという二律背反をぎりぎりのバランスで成立させた距離感が素晴らしい。そして二人は互いに相手のために夜道を進み、夜景の写真を贈りあう。物を贈り合うことで絆を深めるという行為は原始的部族社会から行われてきた極めて根源的な行いだが、使われているツールはスマホという最新のテクノロジーだ。このシーンでは原初的な贈答の素晴らしさと、離れていても繋がれるテクノロジーの素晴らしさという人類数百万年の歴史がぎゅっと濃縮されていて心うたれた。
 オーバーラップした夜景を眺めながら二人が並んでいる演出も素晴らしく、きっと多くの人が心動かされたはずだ。実際、「ゆるキャン 5話 感想」でググると、ラストシーンで感動したという感想記事がヒットする。だが、ネットでバズったのはこのラストシーンではなく、おっぱいとパスタである。何故なのか。

yurucamp.jp


 インターネットでは感動的なシーンは話題になりにくいのだろうか。だが、オリンピックで小平奈緒選手がイ・サンファ選手に滑り寄り、「今でも私はあなたを尊敬しているよ」と伝えたシーンなどは、大きな話題となった。感動的なシーンがバズらないのではなく、フィクションの感動的なシーンがバズりにくいのではないだろうか。

 何故フィクションの感動的なシーンは話題になりにくいのだろう。フィクションの感動には作り手の意図がある。作り手の意図にまんまとハマったと表明するのは気恥ずかしいという感覚があるのかも知れない。
 また、フィクションで感動したと表明するのは、自分がこういう人間だと表明することに等しい。小平選手に感動したと言っても、発言者がどういう人かは分からないが、ゆるキャン△5話に感動したと表明すると、発言者はリンみたいな友達が少ないタイプなんだろうな、と推測されてしまう。降参した犬がお腹を見せているような、自分の弱い部分をさらけ出している感じがして、気が進まないのかも知れない。

 だが、より本質的な原因は、インターネットでバズるものと、フィクションで表現するべきものが大きく異なっていることにあるのではないか。
 インターネットでバズるのは、「ゆるキャンのパスタを真っ二つに折ったシーンでイタリア人が大激怒」のように一文で内容をずばりと表現できるようなものだ。
 一方、フィクションで表現すべきなのは、短い文章では伝えきれないものだ。短い文章で伝えることができるなら、わざわざ長い時間をかけて小説を書いたり大金を投じてアニメを作ったりしなくても、ツイッターなどで伝えれば良いからだ。
 アニメを作るのは、アニメでしか伝えきれないものを視聴者に伝えるためだ。その感動を他者に短文で伝えるのは並大抵のことではないのだ。

 

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他者の必要な場所――ゼロ・グラビティ感想

(本稿は『ゼロ・グラビティ』のネタバレを含みます。)

 パリ・ダカールラリーでエンジニアはボロボロになって完走した車を調べ、壊れた箇所ではなく、壊れていなかった箇所を補強したという。壊れた箇所は壊れていても走れたのだから、完走に絶対必要な要素ではなかった。壊れていない箇所こそが必須の要素だったという訳だ。
 『ゼロ・グラビティ』(アルフォンソ・キュアロン監督)を観ると物語に絶対必要な要素が分かる。物語にとって必須ではない要素を極限まで削りこんでいるからだ。

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 まずに目的について考える。物語の主人公はしばしば誰かのために頑張る。自分のために頑張っているより誰かのために頑張っている方が崇高な感じがするからだ。恋人のため、家族のため、仲間のため、世界のため。主人公は様々なもののために努力する。だが、『ゼロ・グラビティ』を観ると、誰かのために頑張るというのがある種のドーピングであることが分かる。

 本作は事故により宇宙に投げ出されてしまったライアンが地球へ帰ろうと奮闘する物語だ。ライアンは最愛の娘を亡くしてしまっており地球に帰還しても誰かが待っていてくれるわけではない。彼女は単に自らが生き残るために頑張る。それだけで十分心打たれる。誰かのために頑張るなどというのは、頑張りに複数人の想いを積みましすることで感動を水増しするためのテクニックに過ぎない。
 七人の仲間の想いは主人公に託された、という場合、主人公の想い30に10×7の仲間の想いを積みましして、合計100にしている。だが、主人公の想いをブラッシュアップして30から100にしてしまえば、余計な積み増しをしなくても十分心打つ物語を作ることができるのだ。

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 次に登場人物について考える。『ゼロ・グラビティ』の主要登場人物は何とライアンとマットの二人しかいない。ほとんどの物語には敵対者が登場するが、本作を観ると困難な状況さえあれば敵対者は必須ではないことが分かる。
 本作に登場するのは主人公と援助者だ。本作を観ると、成長物語において他者がいつ必要なのかが分かる。

(以下重要なネタバレを含みます。)

 本作において他者が登場するのは二箇所ある。序盤と主人公最大の危機だ。
 序盤において、他者は主人公を教え導く贈与者(師匠)として登場する。主人公は船外活動ユニットを持っておらず、自力で移動することすらままならない。主人公は贈与者にロープで繋がれ、牽引される形で移動する。これは主人公が主体的に行動する力を持たない無力な存在であることを明快に可視化している。
 成長物語は主人公の変化を描くものだ。物語序盤において師匠が必要なのは、主人公に技能を習得させるという実際的な意味と共に、主人公が成長後の姿と比べ、無力な存在であることを示すためだ。本作前半で、主人公が援助者に引っ張られて飛んでいたからこそ、終盤で、自ら飛ぶ姿が心を打つのだ。
 成長物語では逆に主人公が一人にならねばならない場面も存在する。それが主人公が覚悟を決めるシーンだ。本作でもマットが語っていた通り、決断は自分自身で行わねばならないのだ。

 だが、本作では大事な主人公の決断シーンの直前に他者が登場し、主人公に示唆を与える。最初にこのシーンを観た時、私はストイックな本作唯一のドーピングではないかと思った。あざとく泣かせに来たのではないかと感じ、実際泣いた。
 だが、よく考えると、他者が登場したのは主人公が覚悟を決めるシーンではない。その前の、最大の試練を迎えるシーンだ。最大の試練において主人公に寄り添うライナスの毛布として他者が必要だったのだ。
 もし主人公が他者からの助けを一切借りずに最大の試練を乗りこえることができたなら、それは主人公が元から成長が必要ないほど強いか、試練の強度が足りないのだ。独力では耐えられず心が折れるくらいまで追い詰められるような試練を乗りこえてこそ、主人公は成長する。そしてそのような試練に耐えるためには、寄り添ってくれる他者が必要なのだ。

 

 

単にPERが低い株を買ったらどうなるか

 株の割安さを測る基準にPER(株価収益率)がある。「PER=株価/1株あたり利益」で計算できる。理論上会社の利益は全て株主に還元されるから、PERは株を買った資金を回収できる年数を示す。PER=15程度が基準で、それより低いと割安、高いと割高だと言われている。
 PER=15は年利1/15=6.67%に相当する。国債の年利は0.05%なのでずいぶん高いように見えるが、株は暴落して損をするリスクがあるので、元本保証の国債より5%程度は高くないとやってられないということらしい。

 株の入門書を読むと、株を買うにあたってPERは確かに重要だが、会社の成長性も合わせて判断しなくてはならぬということが書いてある。
 PER=15が標準というのは成長率0%の企業の場合だ。株価は3年後ぐらいの企業の業績を見越して動く。3年後に利益が倍になるような成長企業なら、15×2でPER=30が適正値になる。逆に3年後には利益が半減してしまうような会社なら、PER=7.5程度が適正になる。業種によっても適正なPERが異なるし、PERだけで判断しては駄目ということらしい。

diamond.jp

 しかしながら、会社の成長性を見きわめるのは難しい。過去数年は順調に利益を伸ばしていてもいきなり業績が悪化するかも知れないし、逆もまたあり得る。株の素人が無い知恵を絞って会社の成長性についてあれこれ考えるくらいなら、単にPERが低い株を買った方が良いのではないか。

 そこで、過去にPERが低かった企業の株を買ったらどうなっていたか調べることで、機械的に低PER株を買うという投資法が有効かどうか検証を行った。

 ウェブアーカイブWayback Machineで日経の予想PER低位ランキングの過去記事を検索した所、2016年5月30日が最も古かったので、このランキングの上位10社を単純に1株ずつ買ったらどうなったかを調査した。

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 これを見ると、機械的に低PER株を買うという投資法の上昇率(1.50%)は日経平均の上昇率(1.26%)を上回っており、そこそこ有効だということが分かる。
 個別に見ると、1.5倍以上と大きく値を上げた企業が4社、横ばいが5社、上場廃止が1社と3種類に分かれた。栗本鐵工所が11.8倍と急騰しているのが目立つ。
 上場廃止以外で大きく値を下げた企業はなかった。低PER株は底値に近いことが分かる。

結論:機械的に低PER株を買うという投資法はそこそこ有効である。

 

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安部首相が辞めても代わりがいない説は本当か

 財務省の決裁文書書き換え問題で安倍政権が窮地に立たされている。安倍政権を擁護する意見も、当初は朝日新聞による捏造だ、といったものが多かったが、政府が書き換えを認めてからは、官僚が勝手にやったことで安部首相や麻生大臣には関係ない、という意見が主流になっている。
 もう一つ主張されているのが、野党は安部首相の退陣を求めているが、安部首相が辞めても代わりがいないという意見だ。これは比較的中立的な立場の人が主張していることが多い。冷泉彰彦氏は北朝鮮情勢の緊迫化を理由に安倍政権の継続を主張している。

www.newsweekjapan.jp

また、よしき氏は経済政策を理由に、適当な後継候補が上げられないと主張している。

tyoshiki.hatenadiary.com


 果たしてそうだろうか。北朝鮮問題と経済政策の二点から考えてみる。

北朝鮮問題
 トランプ大統領北朝鮮との和平を模索していたティラーソン国務長官を解任し、強硬派のポンペオ氏を後任に据えた。北朝鮮情勢が緊迫しており、政治的空白を生むのがリスキーだという意見には同意する。
 政権交代が起こると外交に断絶が生じ、不安定になりやすいのは確かだ。例えば、民主党政権時に、尖閣諸島で中国船を拿捕しても立件しないという自民党政権下の申し送りが継承されておらず、結果的に尖閣諸島を係争地化されてしまったのは政権交代の弊害と言って良い。

 だが、安倍首相が退陣し自民党の他の人が首相になったとしても、外交関係の閣僚を留任させれば、大きな混乱が生じるとは考えにくい。安部首相はトランプ大統領と一緒にゴルフをしたりして個人的に親しいというメリットはあるが、それが北朝鮮危機において事態の打開に寄与しているようには見えない。
 安部首相は「関わっていたら首相も議員も辞める」という答弁をして自ら今日の危機を招くなど、危機管理能力に優れているとは言い難く、朝鮮半島有事の際に適切に対処できるか不安が残る。危機管理という点では、外相時代目立った失点や失言が無かった岸田氏の方が優れているし、他の候補も安倍氏より劣っているということはないのではあるまいか。

2経済政策
 経済政策において、安部首相はリフレ派の期待を一身に背負っている。確かに、安部政権の金融緩和や消費増税延期は景気回復に一定の効果があったように見える。安部首相が続投すれば金融緩和は継続され、消費増税は延期されるが、交代すれば金融緩和は縮小、消費増税が実施されて不況がやってくるという主張も散見される。

 だが、金融緩和を行っているのは日銀であり、黒田総裁は再任されたばかりで五年間は交代しないから、首相が交代したからといっていきなり金融政策が大きく変更されるとは考えにくい。
 消費増税に関しては、石破氏ら主な首相候補が軒並み賛成しているのは確かだ。だが、安部首相も先の総選挙で、消費増税を実施し、使い道を子育て支援等に当てることを主に訴えて勝利している。安倍政権が続けば、予定通り消費増税が実施されると考えるのが自然だ。つまり、自民党政権が続く限り、どっちみち消費増税は実施されるのだ。
 総選挙で野党は消費増税の延期を訴えていたのだが、それをもって安倍政権支持から野党支持に鞍替えしたという人はあまり聞かない。

 民主党は消費増税しないと言っていたのに増税したから信用ならんという意見には一理あり、野党が政権を奪還しても結局消費増税になる可能性はある。とは言え、さすがに増税しないと言っている野党より増税すると言っている与党が政権を獲った方が増税しない可能性が高いということはないだろう。

 安部首相は一度消費増税を延期した実績があるから、また延期するのではないかと期待するのは分からないでもない。だが、安部首相は消費増税を実施し、使い道を変更することを国民に問うために、わざわざ600億円もかけて解散総選挙を行ったのである。確かに私も消費増税は延期すべきだと思うが、特に必要もない解散をしてまで国民に信を問うた公約を撤回するのもそれはそれで問題があるのではないだろうか。